My hero Part3

2011 - 02/17 [Thu] - 20:02

金は底のない海である
このなかに名誉も良心も心理も
みんな投げ込まれる
        ―カズレー




【ウィッシュ=フローラ】

黒い長髪、中性的な容姿の男
非常に強大な魔法使いである

子供のような無邪気さと
大人のような冷静さを併せ持つ


【コーネ=フローラ】

芯が強く、聡明な金髪の女性
ウィッシュとは最愛の間柄

彼女は苦悩している者を
癒すことに幸せを見出す















「・・・・・・全滅?
 たった一人にか?」





「天使<ウィッシュ>・・・そうか・・・」





「分かった、私が出向こう
 それまで足止めを・・・おい」





「・・・おい起きろ!
 ・・・・・・なに寝てんだ!」















今俺がいる
マフィアのオフィス

都会の中央に
その高さを誇るように
夜の曇天を貫くビルの50階





赤いカーペットが敷かれ
高級で悪趣味な椅子やテーブルが
吹き飛ばされ倒れている
幹部が待ち構えていた部屋

眠りにおちた団員たちのいびき
皆が相手を威圧するような
"なり"をしている





俺にはこいつらが
土地を取り上げたり
虚勢を張りたがる理由が
分かる気がする










俺は争いごとが嫌いだ

人道的にどうのこうの、じゃない



敵を作ったり
しがらみを増やしたり
或いは暗殺されるかもしれない
緊迫した状態で生活したり



そんな窮屈な世界で生きたくない



怖いし、面倒だし
何より虚しい










一方、俺には
持て囃されている人や
巨万の富を得た人が
どこかしら腹立たしくて
奪い取ってしまいたいという
気持ちがどこかにある





盗みや暴力は
確かにやってはならないが
人間なら一度は
やってみたいと思うのではないか










勢いよく部屋のドアが開く

大層な格好をした
恰幅の良い中年男性が
銃を持った数人の護衛に囲まれながら
俺の方に近寄ってくる



狐のような冷徹な眼光を隠しながら
気持ちの悪い愛想笑いを携えた男は
馴れ馴れしく俺に挨拶して
このマフィアのボスだと名乗った





そして敵意を剥き出した目を
隠しもしない俺のことを
大げさな言葉で褒め称えた



「200人足らずを一人で相手するとは!」
「さすが天使と呼ばれるだけはある!」
「その力、実に惜しい!」
「喉から手が出る逸材だ!」



反吐が出るような文句を並べる彼は
薄暗い笑窪を浮かべていた





「貴方ほどの者なら
 さぞかし女も寄って集るでしょう!」





確かに俺が街を歩くと
黄色い声が聴こえることがある

正直嬉しい

そもそも俺が人助けを始めたのは
女にもてたかったからだったな・・・





「いかにも!美貌や実力はもちろん
 何より貴方は
 金に困ることはありませんから!」





この美貌はねぇ・・・

一応、催眠術もする俺としては
マッチョな男よりも
中性的な美貌の方が都合が良くて

男からは女性的に
女からは男性的に

状況に合わせて
錯覚させることができるから





「そうです!女は金に寄り付くもの!
 女は金で買える生き物なのです!

 そして貴方は莫大な金を集めるのに
 事欠かない力を持っている!」





この男は両手の甲を俺に向け
十本の指に嵌めていた
ギラギラと黒光りする
かなり大きい指輪を見せ付けてきた





さりげなく男は
俺が嵌めている素朴な銀の指輪を見て
ヒッヒッヒ、と小馬鹿にした





「結婚相手十人もいるの?君は」

俺が皮肉を言うと
男はさらに黒い笑窪を深くして
これ見よがしに指を鳴らした





部屋の外で待ち構えていただろう
露出度の高い服を着た
官能的な美女たちが
モデルのような足取りで
男の周りに集まった

十人どころじゃない
その二倍はいる





女たちは妖しい眼差しで俺を見る

立ち眩みのようなリビドーが煮えたぎる





「どうでしょう!
 もっともあなたなら
 世界中の美女を
 我が物にすることも
 不可能ではありませんが!」















理性的には
この男が言うことに根拠は無く
俺はただ誘惑されているだけだと
冷静に理解していた





だが両目に映る金と女

はっきりと見ると
眼が眩んで
脳髄が痺れてしまう





ついつい男の真似をして
美女や金が欲しくなった



理由などない
ただ異様にそれが欲しかった















口を挟む暇も無く
男の長話は続いた





男が話す言葉が
頭の中に響いては
俺の思考をかき消してしまう



ぎとぎととした渇きが
指先にまで行き渡っては
身体が妙に疼く










この男は
人の欲望を煽るのが上手い





そう分かっていても
男の言葉に聞き入ってしまう





何も言わない俺の弱みを
男は突いてきた



「貴方も分かっているはずだ!
 名誉のために貴方は英雄を気取る!

 貴方は貧乏人のように清貧な生活を送るが
 それは人心を掌握するためだ!」





いつもなら適当にはぐらかして
言葉を返しているところだ



「君のような生活に
 憧れないわけでもないけど

 その為に犠牲にするモノが
 あまりにも大きすぎる」と



しかしどうも言葉に詰まって
男の指摘を否定できない










この時、俺の眼は
どんなものだったのだろう

とろんとした眼だったのだろうか










男は内に潜めた狐の眼光を露にし
巧みな話術で俺を虜にする










抑圧していた本能が
体の中で呻りをあげて
心臓が高鳴るのが聞こえる









「―どうですか?
 我々の仲間へと・・・」



男がこう言ったとき
俺はただただ
蠢く衝動を抑えようと
小さくなっていただけだった










「・・・・・・」

「貴方なら特別に
 幹部にしてやってもいい

 それに貴方の自由な行動も約束しましょう」



男は懐からから
札束を取り出して俺に見せる



100万ユーロ<この時1億円くらい>はある



「これはほんの契約金です
 
 貴方はこれでは満足しないでしょうからね
 
 そうですねぇ・・・
 十倍は月に払うと約束しましょう」



喉仏を転がすように
やけにベトついた声で言った










俺の頭の中では
この金をどのように使うのかで一杯だ





手駒を集めるのも良し
美女を集めるのも良し



誰もが羨む
大豪邸を建てるのもいいだろう





金と力に物を言わせて
国を乗っ取ることも
・・・できるかもしれない










ふと時間が気になって
壁に掛けられた時計を見る





・・・晩ごはん、もう遅い

もうコーネ、泣いているかもしれない・・・
何回も独りで寂しい思いをさせる俺は・・・





「・・・分かりました」



俺は歯をくいしばって
男の札束を受け取ろうと近づく





男は脂の乗った顔で
にんまりと不快に笑ってみせた




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