汚いオトナたち Part4

2011 - 03/13 [Sun] - 12:34

いかなるすぐれた大学でも
そこで修得する知識は
人生から学ぶものにくらべれば
一割にも満たない

―ロバート・アンダーソン





【ウィッシュ=フローラ】

黒い長髪、中性的な容姿の男
非常に強大な魔法使いである

子供のような無邪気さと
大人のような冷静さを併せ持つ


【マックス】

腕に刺青がある大柄の黒人男性
喧嘩が強く地元で恐れられている

エリートだったが"大人"に裏切られて以来
それらを憎んで荒んだ生活を送る















教会の鐘が鳴る

鉛の雲の向こう側から
太陽はその日で最も強い光を
しみったれた都会に降らせる















ネズミたちが水たまりをすすり
丸まったニュースペーパーが
風で転がってゆく

人目のつかない路地裏で
ウィッシュは自分より大きな
似合わぬ無地の服を着た
マックスを背中から降ろす





水たまりをすするネズミたちは
壁にあいた穴の中に逃げていった















マックスはレンガの壁に
よっかかって後頭部に両手を回す





「・・・なんでここまで連れてきたんだ?」

マックスは怒りを抑えたように
低い声でウィッシュに問う

「なんでって・・・

 そりゃああんなひどい暴行受けていて
 見て見ぬフリもできないし・・・」

「ちげぇ!なんでわざわざオヤジを突き飛ばして
 俺をここに連れてきたんだ、って意味だ!」



マックスの上の鉄パイプから
水滴が水たまりに落ちてゆく

草の根も生えぬコンクリートの地面から
不味いジュースの匂いがする





「止めるんだったら
 普通に口で言えば良かったろ!

 テメェ、病室から連れ出せば
 後で面倒なことになるとか言っておきながら
 テメェ自身が面倒なことつくってんじゃねぇか!

 俺はあとでオヤジたちになんて言えばいいんだ!」

「・・・」



ウィッシュの白い靴の上を
ドブネズミが走り抜ける

後ろのゴミ箱からの悪臭で
鼻が曲がりそうだ





「大体よぉ!
 テメェ、コロコロと態度変えやがるよなぁ!

 俺が悪さしてやると脅せば
 嫌々と魔法を教えやがるし
 オフクロがタバコ押し付けようとしたら
 今度は俺の味方しやがって!」

「・・・」



排熱機のプロペラがうるさい

気持ちの悪い熱風に
ウィッシュの体が晒される



「なんか言ったらどうだ!?あぁ!?」










「・・・ごめんなさい」
ウィッシュは下を俯いて
ただ一言だけそう言った



ウィッシュが謝るのが意外だったのか
マックスは目を大きく開いて
チッ、と舌を鳴らすと
目線を上に逸らした















しばらく時間が経ったが
曇りの空でネズミの鳴き声だけが
足元から聞こえる

























「ねぇ、マックス・・・」

「あぁ?」





ウィッシュは水たまりを眺めたまま
マックスは空を見上げたままで
目線を合わせることはない





「いつもあんなことされているの・・・?」

「テメェには関係ねぇだろ」

「じゃあ、背中にたくさんあった火傷は?」

「・・・チッ」



マックスは両膝を曲げて
パイプから落ちる水滴を眺め続ける
ウィッシュを上目遣いで見る



「・・・いつもあんなんだよ」

「そう・・・」



話すことがなくなり
マックスもウィッシュと同じ
濡れた鉄パイプをぼんやりと眺める















「・・・オヤジはそこそこ頭が良いし
 オフクロもあの病院で働いていた

 あいつらの言うこと聞いていれば
 将来必ず金持ちになれると思って
 ガキの頃は勉強しまくってたが・・・

 あいつら、俺を自慢話の種に使いやがる
 ムカついて勉強やめて
 テストはカンニングしまくって
 就職率100パーなんて抜かしやがる
 ヘボい学校行ったら・・・このザマだ」

「・・・両親、見栄っ張りなんだな」

「あぁ」



鉛色の雲は
互いに狭い空をせしめきあい
同じようにビルが並び立つ
都会の向こうまで流れてゆく





「まあ、ありがとよ
 これでオヤジたちに一生会わねぇで済む

 あんな家に帰るんだったら
 ムショにでもぶち込まれた方がマシだ」



マックスは笑うが
その目は正に
ムショにぶち込まれた人のような目だ



「・・・どうやって生きていくんだ?」

「あぁ?・・・ダチのとこ行って
 泊めてもらうことにするわ

 家のことは手伝いながら
 バイトして金稼ぐ」

「・・・大変そうだね」

「他人事みたいに言いやがって・・・」

「・・・お前の将来を思ってやるから
 お前はこうするべきだ、なんて言う大人を
 君は信用できる?」

「・・・」





「・・・マックス、よかったら
 これを持っていってくれ」

ウィッシュの右手で
透明な光が集まると
それは基礎的な魔法の教書となった

「多分なにかの役に立つから」

本を差し出すウィッシュ





「テメェは教えてくれねぇのか?」

マックスは不機嫌そうに言う

「勉強を教えるときは
 教師が生徒に一から教えるのが
 スジなんじゃねぇのか?

 テメェは俺が辞めた
 クソ学校の教師みてぇになるぞ」

「・・・でもつきっきりで
 教えるわけにもいかないし
 魔法・・・いや、本当に価値のある勉強は
 試行錯誤を重ねないと意味が無い

 君がいた学校が
 そうだとは言わないけれど」



マックスは無言のまま
片手で本を受け取る



「・・・なんつーかな

 テメェは他のオトナと比べて
 あんまし偉そうなことは言わねぇし
 それに綺麗事言って
 ウソはついてなさそうだからな

 ちょっとは信用できそうだわ」

「あら、それはありがたいな」

「・・・心理学の効果か?」

「いや、心理学を勉強したからって言って
 人の心をとらえるのが上手いとは限らない

 ちゃんとその人の目線で
 物事を見て、考えていかないと」

「・・・」

「え、なんか悪いこと言った?」



「やっぱコイツも信用できねぇわ」と
マックスは呟いて腕を組む

ウィッシュは「気を悪くしたらゴメン」と
すぐに謝ったがマックスは頷くだけだ










マックスは病室用の上着を着たまま
逞しい背中をウィッシュに見せつつ
あばよ、と言わんばかりに右手をふって
都会の雑踏へと消えていった

ウィッシュは「頑張れよ」と言ったが
聞こえたかどうかは定かではなかった



































「おうマックス
 またあのカマ<オカマ野郎>から貰った本で
 魔法の勉強してんのか?」

「うるせぇ、ぬっ殺すぞ」



テレビを流しっぱなしの
一人暮らしの友人の宅で
マックスはソファーに座って
黙々と魔法の勉強をしている



「先公もいねーのに
 中身ちゃんと分かるのか?」

ソファーの後ろから
マックスの持つ本を眺めて
小馬鹿にするように言う



「クソ先公どもの
 授業なんざ信用できっか

 アイツらの話を鵜呑みにしちまうと
 ロクなことにあわねぇ」

「へぇ~
 おめぇ面白いこと言うな」

「あぁ?」



耳にピアスを着けた
白い肌した金髪の友人は
タバコを取り出しながら
マックスの隣に座って
ヘラヘラと笑った



「なんか魔法使えるようになったか?」

「・・・見ろ」

マックスは友人がくわえる
タバコに火をつけた

驚いて口からタバコを落とす友人だが
素早く片手でタバコを挟んで
またそれを口に加える



「・・・おめぇすげーな!
 ライター一個分の価値がある!」

友人とマックスは右手をあげて
力強くハイタッチをした

「へへへ、今ストーブの代わりになるほど
 部屋を暖かくする魔法を勉強してる」

「お!?ソイツぁいい!
 ライターからヒーターに昇進だな!」

「おう!テメェのギターよりも
 よっぽど価値があるわけよ」

「うるせー!ヒーター!
 いつかバンド組んでデビューすんだよ!」

そう言うと友人は
マックスの肩をどついて笑う

二人はふざけながらも
実用性のある新しい知識の習得に
心から喜ぶのであった















彼らの覚えた知識は
オトナから見れば
価値の無いものなのかもしれない

しかし、少なくとも
彼らにとって魔法の勉強は
価値のあるものとなった










社会の掃き溜めとレッテルを貼られた
不良と呼ばれる少年たちだが
今彼らは少しずつ自立して
大人になりつつある




No title

こちらでははじめましてです。
LandMの才条 蓮と申します。
なかなかコメント復帰の目途が立っていなかったのですが、ようやく大丈夫です。今までコメントできずにすいませんでした。

汚いオトナたちのシリーズを読ませていただきました。
魔法の価値観が万能ではなくて、手段の一つであるところが面白いですよね。学校の話と絡み合って、リアリティに演じられているのが好きでしたね。また読ませていただきますね。
時間がかかったのですがリンクをつなげさせてよろしいですか。これからもよろしくお願いします。

才条 蓮様へ

初めまして~(^^*



「何様だコイツ!」と思われるかもしれませんが
私は魔法に万能性を求めたくないのですよヾ(`Д´ノ゛

(物語の主人公たちの方が
 "万能"過ぎるのかどうかは置いておいて)

だって魔法使えない人だって
魔法を使う以上に素晴らしい能力を持つ人がいるんですよ!?
そこに万能の力を持ち出すのは
彼らを否定することになりかねませんので(´・ω・`

優れた芸術家しかり、偉大な発明家しかり
家族の愛や恋人の愛でさえも、です



それとリンクは是非ともお願いしますm(__)m

こちらの方からも蓮様のブログへの
リンクを貼らせて頂きました

こんな私ですが
これからもよろしくおねがいしますね(・ω・*

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