「寂しくない!」 Part1

2011 - 03/30 [Wed] - 18:10

立って歩け

前へ進め

あんたには立派な足がついてるじゃないか

―鋼の錬金術師





【ウィッシュ=フローラ】

無邪気さとニヒルさの間で飄々としている気ままに生きる男
黒い長髪、中性的な容姿は仕事<催眠療法>のため

極限まで研ぎ澄ました色のない光<魔力>を自由自在に操り
魔力を神のように崇める独特の宗教観を持つがどこかぬけている



【コーネ=フローラ】

芯が強く、聡明で笑顔が似合う金髪の女性
人助けに喜びを感じる純粋な一方、知的で冷静な一面も

事実上の奴隷だった彼女は、死の直前ウィッシュと出会った
死後、幽霊となりウィッシュと再会、今では共に暮らしている















・・・これはひどい















白の絵の具を織り交ぜたような水色の空
指先で優しく広げたような薄い雲





足元の黄緑の草原はずっと向こうまで続いて
地の果てからこうこうと吹く北風の中で
俺<ウィッシュ>の黒い長髪が
黒のジャケットが揺蕩【たゆた】う





タイルのような石造りの歩道は
紫のラベンダーや
黄色のチューリップが植えられた
小さな庭を囲むように敷かれている



客を迎え入れるロッジの小さな門には
まだ花が咲いていない植物が
葡萄の蔦【つた】のように絡み付いていて

・・・それでも門をくぐれば甘い香りが
赤いレンガの屋根の二階建ての小さなロッジに
道を尋ねようとした俺を迎えてくれた





『ブローディーズを探していますが
 (各国から厳選した茶葉をブレンドした
 おおよそ130年愛され続けている紅茶のこと)
 どちらに行けば買うことができるのでしょうか?』



なんてこの薄茶色の木のドアを開いた後に
ロッジのカウンターの人に訊こうと思ったら・・・















窓が泥まみれで汚い



不自然なほど汚い



それも一枚だけじゃない



なぜか一階の窓全てが泥塗れで
二階の窓はいたって普通なのに





明らかに悪ガキどもがイタズラで
このロッジの庭の花畑から泥を掻き集めて
ドアに塗りたくっているようにしか思えない





見知らぬ土地で人の汚い部分を忘れて
淡い自然の中で俺は悠々とした幸せに耽っていたが



・・・一気に現実に引き戻されて、甚だ不愉快だ!










こんな泥塗れの窓なんか
俺が魔法で指先から水を噴射すれば
あっという間にピカピカだ!





ウィッシュは早速、魔法で人差し指の先から
ホースを使っているかのように
加減して水を噴射させると
泥が剥がれた窓に綺麗な空が映る



冷蔵庫と壁の間に溜まった
厄介な埃を取り除いたときのような
妙な恍惚に自然と顔が歪む















「あぁ~!?あたしのお仕事が!?」



ロッジのドアの反対方向から
両手にそれぞれ、モップと水の入ったバケツを持つ
泥だらけのエプロンをした三つ編みの金髪女性が
なぜか驚倒した顔でウィッシュを見つめる





(あれ?なんか悪いことしたのだろうか?)

ウィッシュは指先から水を噴射するのを止めて
足や口を諤々と震わす
このロッジの掃除係と思わしき女性を振りかえる










彼女がバケツを手放すと
垂直に落ちたそれの中から水が飛び散る



「うぅ・・・あたしのお給料ぉ~!!」





三つ編みの彼女は血気に逸って
鬼のような形相でウィッシュに猛然と迫り
モップを振りかざす!





さながら、穢れを知らぬ献身的な若妻が
胸元を露出した赤いワンピースの女性を連れて
甘い言葉を囁いている夫を目撃したときに
夫から告白の際にプレゼントして貰った
最高級の思い出のバッグを振りかざして
夫と女性に殴りかかるかのような殺気だ!





しかし、相対するウィッシュも
頭を狙って振り下ろされたモップを
片腕で防御して冷静に対処!





と、ここでモップに絡み付いていた
無数の泥や埃や得体の知れない虫の死骸が
ウィッシュの顔面に降り注ぐ!





堪らず怯んだ埃アレルギー体質のウィッシュは
すぐに涙を浮かべて咳き込み始めた!





ここぞといわんばかりに
三つ編みの女性は再びモップを誇らしげに掲げて
あらん限りの力でウィッシュの頭に振り下ろす!





直撃!



殴られた痛み、というよりは
埃によるアレルギーで
あえなく撃沈したウィッシュは
四つん這いになって口に入った汚物を
必死に吐き出そうと何度も咳き込む










「あたしのお仕事を邪魔する人は許しません!」



片手を腰に当てて
片手でモップを地に突き立てて
三つ編みの女性はそう言った










「ちょっとレイチェル!?お客様になんてことするの!?」



ウィッシュが涙ぐんだ目で振り返ると
少なくとも五十路以上の齢に見える
綺麗なエプロンをした白髪の女性が
怖い顔をしてレイチェル<三つ編みの女性>に怒鳴った



「ひゃあ!?・・・この人は泥棒です!

 お庭のラベンダーを摘み取って
 沈んだ気持ちで身内のお葬式に着手する方々に
 ぼったくり価格で売りつける外道です!
 ラベンダーの花言葉は"不信"、"疑い"ですよ!

 夜な夜な花畑で泥を掻き集める犯人はこの人です!」





「嘘つくんじゃないの!
 あんたでしょ!夜な夜な泥遊びしては
 ロッジの窓に塗りたくっているのは!」





ウィッシュは、みるみる顔の皺が増えてゆく上司と
図星をつかれたのか焦り始めた部下の間に挟まれ
とりあえず微動だにしないでいる





「ひぇ!?なんで分かったんですか!?」



「あんたのエプロン、いっつも泥だらけじゃない!
 それも毎朝、窓の掃除をする前から!

 どうせわざと仕事を増やして、給料を巻き上げるために
 自分で塗った泥を自分で掃除していたんでしょ!」





たしかにウィッシュが見たとき
レイチェルのエプロンは泥だらけだった





「うぅ・・・わぁ~!
 ゴメンなさい!許してください!!
 次からしませんから、クビにしないでください!」



レイチェルは急に掌を返して
ウィッシュよろしく、四つん這いになって
何度も頭を石造りの道にぶつける



「これで何度目だと思っているの!?
 15度目でしょ!

 大切な皿を割り、お客様の頭に紅茶をこぼす
 胡椒と塩を間違えるし、捨て猫をロッジの中で飼う!

 挙句の果てに私を騙そうとしたわね!
 
 もうこれ以上は我慢できないわ!
 荷物まとめてここから出てって!」



そう言うなりおっかない上司は
木造のドアが壊れるくらいの力で閉める





(俺のせいだろうか・・・?)





アレルギーが鎮まったウィッシュは立ち上がって
力なく座り込む不憫な(?)レイチェルを見る





「み、みすてないで下さ~い!
 これじゃああたし、一生かかっても
 両親のお墓を建てられないまま
 あたしの家で衰弱死してしまいます!

 もうこの町では
 ここしか働くところがないんです!」



ドアの向こうに痛切な叫びは届かない



「・・・」

























『・・・日の出前から馬小屋で眠る私たちを
 鞭を持った監視官が叩き起こしに来るの

 朝食の食パンは四人で一つ
 雨水を貯めたのをコップに入れてね

 私たちが収容されていたところは
 大規模な農場だったのに
 収穫されたものが出されたことは一度もなかった

 物心つくまえに家族はみんな死んじゃったから
 それが普通だったんだけどね





 最悪の環境と体調で、手袋もつけずに
 鎌やナイフを使っていたから
 間違って指を切ったりする子も珍しくなかった

 ・・・"使えなくなった"子はどうなると思う?

 運よく、容姿の整った少女だけは
 小さな娼婦として売り飛ばされるけど

 でも大抵の子は
 何も持たせられずに仕事場を追われて
 町の中で野垂れ死ぬか
 悪事に手を染めるかのどちらか





 私は・・・
 
 十歳くらいになっても
 コップを運べばすぐにこぼしたし
 重いものをもてなかったから
 同じ年の子に比べて役立たずだった

 幸か不幸か
 痩せ細って容姿も醜かったから
 娼婦として買い取られることもなく
 農場を追われて町を彷徨ったの



 たくさんの人に助けを求めたけど
 あの町に人を助けるほど贅沢できる人はいない
 もしいたとしても、全部悪い人だったしね



 何度か食べ物を盗んで食べたけど
 捕まって酷い仕打ちを受けたから
 町に居ることも出来なくなって
 道端で這いずって生きていたけど
 小さな橋の下で動けなくなって・・・





 ・・・お母さんが
 ウィッシュの言い分を聞いてくれないから
 お小遣いを持って家出したんだよね?

 それで一人になりたいからって
 あの町の周辺を彷徨っていたとき
 雨が降って小さな橋の下に居た私と出会ったんだっけ



 ウィッシュは最善を尽くして
 数日の間だけ、魔法を教えながら付き添ってくれて
 家や生活に必要なものや、畑まで作ってくれたけど
 魔法ではどうしようもない病気で死んでしまって・・・



 でも、ある程度魔力がある<意志が強い>人間は
 死んでも幽霊として生き続ける

 異世界から来たといわれるウィッシュを探して
 私と同じ幽霊たちと出会いながら
 私はたくさんの経験を積んだ

 ある時、普通の人間には見えないはずの私は
 ウィッシュのお母さんに見つけられて
 これまでの経緯を話してくれたら

 ちょうど自暴自棄になっているウィッシュを
 励ますにもちょうどいいと言って
 異世界に移動できるように指輪に私を封じ込めて
 その指輪をウィッシュに渡した



 ・・・それから
 ウィッシュが私の新しい身体を魔法でつくってくれて
 こうして一緒にいることができるのよ』





・・・あの時、自宅で過去を話したときの
コーネの泣き顔は今でも憶えている

そっと手繰り寄せたら
俺の胸の中で恐怖に震えて
気がついたらコーネは安らかな顔で眠っていた










レイチェル・・・

この人もコーネと同じ行く末なのだろうか?



聞く分には、貧乏なのに働く宛てもなく
しかも"役立たず"と言われている・・・










「あぁ、どうしたらいいんだろ・・・
 あたしは何をやってもダメだ・・・」





レイチェルは、泣いているわけではないが
座り込んだまま両手で顔を隠して途方に暮れている





ダメだ、どうしてもこの人が
コーネと重なって仕方が無い





レイチェルは赤の他人
どうなろうと構わないのに・・・










ウィッシュはレイチェルの傍までよって
膝を曲げて顔を同じ高さに合わせる



「あの、力になりましょうか?」

ウィッシュがそう言うと
レイチェルは手をどかして
丸い目で驚いた顔をした




No title

レイチェルみたいな前向きなのは好きですけどね。頑張り方のベクトルがおかしいような気がしないでもないですけど、そういうことも含めて好きですね。こういう頑張り方はいいですね。

蓮様へ

レイチェルは放っておけないタイプです
良くも悪くも、ついつい構いたくなってしまうような
不思議なオーラを持つ人なのです
恐らく失敗しても笑って許してあげたくなるでしょうし

それも一つの報酬なのでしょう
普段から不誠実な人なんかに
誰も手を差し伸べるはずがありませんからね(ーωー

もしかしたら、蓮様はレイチェルの誠実さに
心を打たれて好きになったかもしれませんね(・ω・*

不器用な人に神様が与えた祝福
ここでは希望の名を持った天使が
頑張るけどドジな人間に力を貸すと言っています

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