「寂しくない!」 Part3(完)

2011 - 04/01 [Fri] - 15:25

手に入れたいのはハッピーエンドじゃない
鍛え抜かれたハッピーマインドだ

―ご近所物語





【ウィッシュ=フローラ】

無邪気さとニヒルさの間で飄々としている気ままに生きる男
黒い長髪、中性的な容姿は仕事<催眠療法>のため

極限まで研ぎ澄ました色のない光<魔力>を自由自在に操り
魔力を神のように崇める独特の宗教観を持つがどこかぬけている



【コーネ=フローラ】

芯が強く、聡明で笑顔が似合う金髪の女性
人助けに喜びを感じる純粋な一方、知的で冷静な一面も

事実上の奴隷だった彼女は、死の直前ウィッシュと出会った
死後、幽霊となりウィッシュと再会、今では共に暮らしている



【レイチェル=ボイド】

貧乏の生まれで両親の墓をたてるため懸命に働く三つ編み金髪女
しかしうっかり屋なため「仕事の役に立たない」とよく言われる

経歴と性格から、男にも恵まれず、よく騙されて大損を踏むが
近所の子ども達から慕われている、良い意味での幸せ者















「・・・魔力は目に見えませんが
 空気のように俺たちの身近に漂っています



 術とはその魔力を利用して
 "不可能を可能にする"ことです

 いわゆる、魔法の呪文とかが一つの例ですが
 "限界を超える"といった意味では
 術は誰にでも使えるのですよ

 オリンピックでアスリートが
 世界記録を更新するのも
 無意識に"術"を使って
 身体能力の限界以上のパフォーマンスをひきだした
 結果であるともいえますね



 そして術を使うためには
 まず何よりも辺りに漂う魔力を
 圧縮して、集めなければなりません

 そのための訓練に最適なのが
 術で"クリスタル"を創ることです



 先ほどお見せした"クリスタル"ですが
 あれは魔力を収縮させたものです

 ですから正式名称も
 "マナ=クリスタル"とよばれています



 魔力は"無限の力"ですから
 クリスタルに籠められた"術<願い>"も
 柔軟に変えることが出来ます

 さっき庭に埋めた"クリスタル"には
 綺麗な水をつくり続けるよう
 術をかけている<命令してある>ので
 数年はあそこに泉が・・・?」





日は傾き、窓から差し込む日差しに当てられて
今にも砕けそうな木の椅子に座るレイチェルは
頭を前に何度も倒しながら居眠りしている



ウィッシュは赤ペンで魔法で現したホワイトボードに
自分の言っていることを図で表現しながら
自分なりに分かりやすい言葉で説明したつもりだが
やはり難しくてつまらなかったようだ










電球一つだに無い室内に差し込む
一筋の陽【ひ】の光の中で
小さな埃が不規則に揺られている



さっきまで窓辺で蹲っていた
太った白い猫は
所々に亀裂が入った赤い餌箱を舐めまわしている





ウィッシュがこのまま魔法の講義を続けても
レイチェルは理解できないだろう

少なくとも字の読み書きは出来るから
ウィッシュがレイチェルの為にと
ボロボロのテーブルに置いた魔法の教書を使って
彼女が暇なときにじっくりと取り組めば良い





・・・とは言え、このままじゃ先行きが不安だ
今まで生きてこられたのが不思議なくらいだ

正直者がバカを見る世の中だから
レイチェルはどこかで野垂れ死ぬのではないのかと
一抹の不安を抱くウィッシュ



だが当のレイチェルは割と明るい性格だ
暗い自分を誤魔化そうとしているわけでもない

両親の立派な墓を造ろうと奮闘しているが故なのか?
たしかに、目標を持った人間は強い

しかし、どうもそれだけではないようだ
レイチェルは今を愉しむかのように生きている







ウィッシュは両手を広げ
色のない光<魔力>を長方形に模り
それを暖かそうな毛布として異次元から召還する<取り出す>と
こくこくと首を倒すレイチェルの肩に掛けてやった







白い猫が舐めまわしている皿を
ウィッシュが取り上げると
猫は名残惜しそうな鳴き声をあげて彼の背にしがみつく





ウィッシュはドアを開けて家の外に出て
スポンジと布巾を召還する

自家農園にある泉の水を
手ですくってスポンジに含ませた後に
それで赤い皿を洗って、布巾で水を拭く





首にしがみついて
唸り声をあげ続ける猫の手の爪が
ちょっと痛い・・・





最後に(チャーリーのママさんから貰った)牛乳ビンを召還
掌から熱を発生させて程よい温度に熱する



赤い皿を地面に置くと
猫はすぐに皿を舐め始めようとするが
寸前、ウィッシュが牛乳を皿に注ぐと
急に猫は大人しくなった



よく見るとなかなか可愛い猫は
ウィッシュを上目遣いで見ながら
可愛い鳴き声を出して
舌先で温かい牛乳を味わい始めた










さて、これからどうしようかと
膝を折っていたウィッシュが立ち上がり、振り返ると

九人の幼い子どもたちが
ウィッシュをまじまじと見つめていた





少年、少女の全員が金髪
おそろいのタータン柄のキルトで
更に全員が白いソックスを履いている

(キルトとはこの国<スコットランド>の伝統衣装で
 スカートみたいな衣装のこと
 バグパイプ演奏する人がよく履いているアレ)





手に新品のフライパンを持つ子
おいしそうなオレンジが入った籠を持つ子
男なのに丈が大きなエプロンを持つ子
・・・あ、名産品、ブローディーズ<紅茶>のパックを持つ子もいる






子どもたちはウィッシュの前で
遠慮なく何かを相談し始める

当初はウィッシュを不審に思いつつも、最終的には
「今日のレイチェルお姉ちゃんを世話する当番の人」だとした





「ねぇ、レイチェルお姉ちゃんいますか?」



頬が"膨み"を帯びて、翠の眼をした優しそうな少年が
きちんと並んだ子どもたちの列から一歩前に出て
声変わりする前特有のソプラノボイスでウィッシュに問う





ウィッシュは再び膝を折って
目線を少年、少女に合わせる

後ろでは、相変わらず猫が牛乳を舐めている





「レイチェルさん?いま寝ているね」



出来るだけ警戒させないように
ウィッシュは口元を緩ませながら話した



「呼んできてい~い?」

一列に並んだ子どもの内の
ウェーブがかった金髪の子どもが話しかけた



「いいけど・・・君たち、何しに来たの?」

結構な数の子が尋ねてくるものだから
ぱっちりと目を見開いたウィッシュが質問する



「れんしゅう!」

ツインテールで一番小さな少女が言う



「・・・練習?」

「はい!踊るの練習です!」

真っ白い肌の育ちのよさそうな少年が言う

「ほぇ・・・?」



練習?踊る?
レイチェルが踊りを教えてくれるのだろうか?



「・・・ちょっと待ってて、今呼んでくる」





ウィッシュはあばら家の中に入って
座ったまま俯いて"いびき"をかくレイチェルの肩を
正面から何度も軽く叩くと
彼女は苦しそうに唸って反応した



「寝ているところすみません
 子どもたちが貴方に用事があると
 外で待っているようですけど・・・」



レイチェルの口から
腹に飼っている"なにか"を吐き出すかのように唸ったあと
椅子を倒しながらはっと立ち上がる



「あたし、どれくらい寝てました!?」

「えっと・・・大体15分くらいですね」

「そんなに!?
 あぁ~みんな~ゴメンね~!!」



ウィッシュを跳ね除けて部屋の隅に置いていた
奇抜で大きな入れ物を重たそうに背負ったあとに
レイチェルはドアを突き飛ばしながら
外にいる子どもたちのもとに駆けつける










すぐに音が響く



重く、低く、そして長い残響のある音に重なって
波打つ荘厳な音色が、勇壮なメロディーを奏する





もしや、と思ったウィッシュがドアを開くと―





一列に、可愛らしい足取りで踊る子どもたちの前で
レイチェルが立ったままバグパイプを演奏している





子どもたちを無視して牛乳を舐めていた太った猫は
レイチェルの横に座って
潤んだ目で子どもたちの踊りに見入っている



その中に一人だけ
ワンテンポ遅れて踊る
少しひょろっとした少年がいた



汚れたエプロンと、黄ばんだ三角巾を着けたまま
やけに手入れが行き届いたバグパイプを演奏するレイチェルは
子どもたちを真剣な眼差しで見つめる





演奏が終わるとレイチェルは
他の子よりワンテンポ遅れて踊っていた子の前に立つ

彼女は時に曲の一部を演奏して、お手本を見せながら
ウィッシュよりも丁寧にその子に踊りを教え始めた





手の角度、足の運び方
回転するタイミング、笑顔で踊ることの大切さ





間違いをレイチェルに諭されても
嫌な顔一つせずにその子は何度も同じフレーズを踊る



周りの子たちも
「がんばって!」とか「ファイト!」とか
短い言葉で、絶えずその子を応援している





ウィッシュはしばらくの間
閉じられたあばら家のドアの前に立って
その子が踊れるようになるのをずっと見守っていた















何度も同じフレーズを踊ったあと
レイチェルは最初に演奏した曲をもう一度奏でる



両手を腰に当てて、そのまま腰をひいて
「エヘン」とやってみせたり

両足を近くにそろえて
手を広げてゆっくり回ってみせたり

スキップのような足取りで
相互にすれ違って場所を移動したり





あの子もワンテンポ遅れずに、曲の最後まで踊りきった





バグパイプを置くなり
レイチェルは盛大な拍手を全員に送った



「すごい!みんな可愛かったよ!
 上達したね!偉いぞ!」



ウィッシュやロッジにいた上司と話すときと
何ら変わらない、明るい声の調子で
子どもたちを褒め称える



傍にいた太ったネコは
手足を舐めて、じっと座っている










子どもたちはざわざわしながら
自家農園に置いていた自分の荷物を持って
レイチェルに差し出した





「これね、ママが買ってくれたの
 お姉ちゃん、すぐフライパンに穴をあけるから
 今度は高級なものを買ってきてくれたんだって」

糸目の少年がフライパンを差し出す

「えぇ~!?ポール君のママに悪いよ!
 あたし、フライパンだったら
 使えればなんでもいいのに!」

「でも、ママが・・・」

「・・・うん、ありがとうね
 ママにもそう言って」



レイチェルはポール君の金髪の頭を撫でて
もう一度「ありがとう!」と言ってフライパンを受け取る





「あ!レイチェル!
 これこれ!うちの農場のものなの!」

おませなポニーテールの少女が
オレンジの入った籠を差し出す

「食べて食べて!絶対おいしいから!」

「うわぁ~!大きいね!
 ・・・あたし一人で食べられるかな?」

「ちょっと!残したらおこるよぉ!
 お父さんが一生懸命作ったんだから!」





続いて頭から真っ白なエプロンを被った
少年が話しかける

「・・・エプロン!」

「・・・あたしにくれるの?」

少年はこくりと頷く

「わぁ~ありがとう!」

レイチェルが頭に被せられたエプロンを持ち上げると
少年がもじもじと顔を赤らめていた





「レイチェル様、お母様からの贈り物です」

一番大人びていて、それでいて気品のある少女が
ブローディーズのパックをレイチェルに恭しく渡す

「あぁ~これ大好きなんだ!
 いつもありがとう!」

「いえいえ、これくらいしかできませんが」

少女は丁寧にお辞儀した










「紅茶も貰ったし・・・
 ねぇ、みんな疲れたよね?
 一緒にお茶しましょ!」



「うん!」と元気のいい返事をする子どもたち

太ったネコは口を開いて
レイチェルの足にしがみつく










幸せそうに笑うレイチェルが
あばら家をくるっと振りかえると
自然と緩んだ顔を片手で隠そうとしている
ウィッシュが目に入った



途端に青ざめたレイチェルは
ずっと彼女たちを見ていたウィッシュの前に駆け寄り
何度も頭を下げる

「ごめんなさい!ごめんなさい!
 放っておいてごめんなさい!
 せっかく魔法を教えてくれたのに
 途中で放り出しちゃって!」



子どもたちはレイチェルを見て固まった



ウィッシュは無邪気に笑ってみせて
「いえ、別にいいですよ
 俺が一気に詰め込もうとしたのが悪いんですから」と
レイチェルに言った





「このひと誰?」と
子どもたちは安堵の笑みを浮かべるレイチェルに聞く



「天使さん!」とレイチェルは答えると
「じゃあ、雲の上の国から来たの?」と返ってきた
「もちろん!」とレイチェルは答えたが
ウィッシュは特に気にも留めず
子どもたちの神妙な顔つきを見ていた



「でも、頭に輪もついていないし
 羽も生えていないよ?ほんとうに天使さん?」

子どもたちは、相当ウィッシュに興味を持ったらしく
飽きるまで質問をするつもりだ



「天使さんはね、正直者で優しい人には
 魔法で幸せにしてくれるのよ
 天使さんも正直者だから
 正直な人とは友だちになりたいの」





照れたのか、視線を横に逸らすウィッシュ

太った猫が座りながら
「にゃあ」とウィッシュに鳴いた





「魔法?魔法って?」

質問は絶えることがない





「・・・あとは皆でお茶しながら聞いてみない?
 天使さん、あまり美味しくないですけど
 紅茶を飲んでいきませんか?」



レイチェルを見ると
屈託のない笑顔でウィッシュに期待する



「ん~・・・
 申し訳ありませんが
 紅茶だけ分けて貰えませんか?

 もともとこの紅茶を探していて
 家で待つ奥さん<コーネ>に持っていかないと・・・
 そろそろお八つ時ですからね」



レイチェルと子どもたちは残念そうな顔をする

口々にウィッシュに残って欲しいとせがむが
彼としてはコーネを待たせるわけにもいかないので
板ばさみになって顔をしかめる



「そうだ!」とレイチェルは言う



「あの~その奥さんってすぐにここに来れます?」

「・・・来ようと思えば来れますね
 ちょうど山の麓<たくさんの魔力が溢れる場>が近いですから
 異世界<自宅>にすぐいけますしね」

「でしたら!奥さんと一緒に飲んでいきませんか!?
 勝手ながらあたし、天使さんと奥さんの二人と一緒に
 お茶を飲みたいんです!」

「あら、いいんですか?」

「もちろんです!
 天使さんはとっても良い人ですから
 お礼をするのは当然です!」



ウィッシュはレイチェルの度量に感心して
自然と頭を下げた

「・・・ありがとうございます
 では今から奥さんを呼びます」





わっと喜んだ子どもたちは
二人を囲んで楽しそうにはしゃいだ




No title

レイチェルは幸せでいいキャラクターですよね。
フレッシュでアクティブなキャラクターでいいですよね。みんなから好かれているのでいいですね。グッゲンハイムでも出したいキャラクターですね~~と思いながら見ておりました。
ここまでよませていただきありがとうございます!!

連様へ

こちらこそ、最後までお読みになっていただいたので
はちきれんばかりの喜びに溢れていますよ(`・ω・´

媚びるようですが、私はこういった作風を創るのが
向いているのではないか?と先日ふと思ったので
最近はこのようなストーリーの作品が多いです
お暇でしたら是非ともご覧くださいなb

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