逃避行 Part1

2011 - 04/14 [Thu] - 21:12

私は私が男でないことを嬉しく思います
男だったら、私は女と結婚しなければなりませんもの

―スタール夫人





【シルビア=フローラ】

褐色の肌に長い銀髪が映えるワイルドレディ
勝気ながら上品さも備えるアクティブな女性

獣のような五感と幅広い自然の知識を持ち
詩のない歌声で荒ぶる動物たちを従える















この街に"似合わないもの"はこの世にありえない





窓辺に飾られた華やかな花の数々

ルネサンス期を彷彿とさせる、石造りの劇場の向かいでは
真新しい企業の本部が一際高く街中に聳える



渋滞とにわか雨を喰らった車の列は大通りまで伸び
雨水に濡れたコンクリートには白い光が映る



奇をてらった衣装を着て
口先だけの美学を語る芸術家気取りや

汗を吸った白いタンクトップで
堂々と人前に出る中年男性とすれ違っても

何ら違和感は感じない
この街の一部なのだと



そして、"処分"される捨て犬たちを一目見るために歩く
鮮やかな装飾が施された服のシルビアでさえも
一枚の絵画に描かれたように調和しているのだ










この街では犬を飼うことがブームだ

それ自体は悪いことではない
むしろ同じ動物好きとして熱く語り合いたい


しかし責任感の無い、周りに流されただけの人々が
犬を飼ってはすぐに手放して行くのだ



「金を払ったから別にいいだろ?」なんて言う輩もいる

彼らにとって犬とは
流行りの服と同意義なのだろう




捨てられた哀れな犬たちは
生ごみを漁り、糞尿を道に垂れ
時に人に噛み付いては、病原菌の運び屋ともなる


みすみすと見過ごす訳にはいかないので
国は保護施設を設けて彼らを養っている

だが、こうした犬たちがあまりにも多いものだから
動物保護施設がいっぱいになって悲鳴をあげている


結果、法律として涙を飲みながら"処分"するのだ


彼らを引き取り人々もたまにいる
それでも天に昇る犬の数から見たら微々たるもの





それを知ったシルビアが
何か対策を講じようと思ったのだ

電話でシルビアが
捨て犬たちに薬を投与するスタッフたちに
電話越しに協力を申し出ると
無愛想な声だった若い男性スタッフの
鼻水をすする音が聞こえたのが悲しかった










さて、雨上がりの冷たい風に
銀髪を靡かせている間にも
シルビアは目的地との距離を詰めてゆくが・・・




後ろから笑い声が聞こえる


楽しそうに、じゃない

あれは明らかに人の怒りを煽っている
それも聞こえるように、だ





シルビアが振り返ると
品の無い笑みを浮かべる若いカップルが
シルビアを指差しながら
声も憚らずに陰口を叩いていた




男の方は、生気の消えた目を誤魔化すために
髪を茶に染め、胸元を僅かに開いて見せている

歩くたびにベルトにつけたアクセサリーが
ジャラジャラとうるさい



女の方は、一本乱れず整然と曲線のラインに沿って
首元まで伸びた金髪カールのようだ

髪の先だけが両肩に軽くのっかり
"つば"の大きい丸いピンクの帽子を被っている

コイツの方は笑い声がゲラゲラとうるさい
うるさいを通り越してウザイ、ウザったい





「ヘンだよね!薄着じゃん!
 季節無視している自分が
 カワイイと思ちゃってるよ、ゼッタイ!

 あと足"細すぎて"気持ちワル!
 絶対エヴァ<フランス人モデル>のパクリだよね!

 それにお肌焼きすぎて
 存在感必死にアピールしてるし!」


女の方がシルビアの容姿について
次々と下らない言いがかりを言う

それに続いて
「マジ笑える!」だとか
「引くわ~」だとか若者言葉で同調する




かなり腹が立つがじっと我慢だ

逆説的に言えば
「あいつはワタシより容姿が劣っていると
 認めたからこそ足掻いている」と自分を納得させつつ
シルビアは目的地に歩を進める




道行く人たちはカールの女に誘発されて
徐々にシルビアの陰口を各々の仲間内で言うようになったが
シルビアは鼻歌でも歌って気にしないようにしていた




だがシルビアの後ろから
醜い陰口は消えない















シルビアがガラスの自動ドアを通って
病院のような建物に入ると
彼女が電話で話した青年のスタッフが出迎えてくれた



「お待ちしておりました!」と白衣を着けた青年は
シルビアとカウンターを挟んで
元気な声とともに礼儀正しくお辞儀をする


「初めまして、シルビアよ」


シルビアは握手を求めて右手を差し出す


「はい!僕の名前は・・・」

彼が名乗ろうとした瞬間に
さっきから後をつけてきた女が割って入り
青年に向かって言い放った



「殺されそうな犬、全部よこして!」と



入り口の近くにあったソファーに
大股を開いて連れの男が座った



「はぁ・・・?でも、今日は、その・・・
 今から大切な会議が御座いまして・・・
 えっと、ご面会のお約束は取り付けておられますか?」


突然のことにたじろぐ青年は
マニュアルに書いてあることをそのまま述べた

やはりロクでもないヤツだ!と
シルビアは傍目からカールの女に
冷ややかな視線を浴びせた



「ないけど?」

軽く怒り口調だ


「え・・・でしたら、今日のところはお引取り頂いて・・・」


彼女は青年がそういうことを見越していたかのように
やたら高価そうな赤いバッグをカウンターに投げて置く

その中から札束をこれ見よがしに並べては
「これでどう?」と言って睨む




「ちょっとまってください・・・」

青年は彼の手に負えないと判断して
背後にあった事務所の扉を開く

すぐに事務所内は騒然とし始めた




金持ちらしき女と
下品な服装をした男は
目を合わせてゲラゲラ笑う


青年の顔にニキビがあるからダサいだの
驚いたときの目がキモいだの

品の無い言葉がここまで似合うヤツらは稀だ






『高そうな服ばっかり身に纏って
 金持ちだといい気になってんじゃないわよ

 金で何とでもなると思ってる
 その顔もどうせ整形したんでしょ?

 死にそうな蛆虫みたいに
 バタバタと手足を動かしながら
 ヘラヘラ笑うな、気持ち悪い』

と言いたいところだが
今は事態を丸くおさめることが先決だ

札束を悔し涙を拭うハンカチ代わりにして
さっさとこの場から立ち去るがいい







やがて青年がここの所長と思わしき
髭を蓄えた恰幅の良い男性を共に出てきた



「申し訳ありません
 これからあるお客様との会議が御座いますので
 今日のところはお引取り願います」


青年は青ざめた顔で必死にこの場を収拾しようとした

所長さんはフレッシュな感じのする青年の
教育の一環としてあくまで見守る立場をとるつもりらしい



謝辞を述べるなり、ソファーに座っていた男が
怒号を上げて立ち上がり
女の横に並んでスタッフ二人を威圧する



品も無く両手をカウンターに叩き付ける女

「はぁ!?アンタたちウチがどんなことしてるか知らないの!?
 一昨日の新聞にも載ってたでしょ!
 『動物愛好家、ロザリーが捨て犬15匹を保護した』って!」



この女の名前はロザリーと言うらしい
聞く分には地元ではそれなりに有名なのかもしれない



「はい、分かります
 アナタたちが身寄りの無い犬たちのことを思いやり
 私財を投げ打って自宅で保護しているということは
 私どもの耳にも十分届いております

 しかし、今日は・・・」



「だから!ウチが保護するんだからいいでしょ!
 本当はタダなのに、お金を使って買ってあげてるのに!
 そもそもウチより大切なヤツってだれ!?」



青年は血気迫ったロザリーと
指を鳴らすつれの男に怖気づいて言葉に詰まる




彼の後ろにいた所長さんが
太い腕で青年の方を軽く叩いて前にでるなり
全く動じずに「あの方です」と掌をシルビアに向ける





二人のカップルは
怒りを溜めた表情で横にいたシルビアを見る



シルビアは片手を腰に当てて
静かに睨み返していた




いつも拝見してます

はじめまして。いつも楽しく拝見しています。
また時間を見つけて、遊びに来させて頂きますね!

りん様へ

初めまして~(^^*

もしかしてずっと前からご覧になっていたのでしょうか?
だとしたら喜ばしい限りです、ほんとうにm(__)m

期待に沿えるよう精一杯努力させていただきます(`・ω・´

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