逃避行 Part2

2011 - 04/15 [Fri] - 16:58

二人の女を和合させるより
むしろ全ヨーロッパを和合させることのほうが容易であろう

―ルイ14世





【シルビア=フローラ】

褐色の肌に長い銀髪が映えるワイルドレディ
勝気ながら上品さも備えるアクティブな女性

獣のような五感と幅広い自然の知識を持ち
詩のない歌声で荒ぶる動物たちを従える




【ロザリー=ピエルス】

金髪カールのお金持ちの女性でそれなりに裕福な生まれ
プライドが高く人前で陰口を叩くことも厭わない

両親のような家族をはじめ、あらゆる人々から反感を買う
かなり自己中心的な性格だが飼い犬たちには優しい















ロビーに緊張が走る

ロザリーと彼女の連れの男は
無理な要求が通らなかったことに憤り
本人が一切口出ししないにも関わらず
シルビアにその矛先を向ける





態度の悪いカップルは
腰に片手を当てて睨むシルビアの前に立ちはだかる

応対していた青年は固唾を飲み
所長のオヤジさんは黙々と三人を見つめる




「誰だおまえ?」

だらしなくシャツの胸元を露出した
茶髪の男がシルビアを威圧しながら話しかける


「・・・ボランティアよ」

「ボランティア?」

ロザリーが名も知らない女性の前で
狐のように目を細めて笑う


「アンタが無理してやる必要ないのに
 お金も名声もない人は
 黙ってウチに任せればいいのよ」
そして最後にまた高笑い




カウンターの方を振り向いて
ロザリーが高慢ちきに青年に言う

「同じボランティアだったら
 ウチに任せたほうが都合がいいよ
 家で引き取ってちゃんと世話するからそれでおわり
 ボランティアの人も手間かからないし」


茶髪の男はちょっと顔を突き出しては
シルビアにキスするような動作を見せ付けて挑発した

・・・蹴り飛ばしたい


「しかし、ロザリー君
 君は彼是犬を引き取った数は
 三桁を下らないそうじゃないか
 君の方こそ無理しているんじゃないか?」

顎鬚を触りながら恰幅の良い所長が太い声で喋る


「何!?信用出来ないっての!?」


思い通りにいかないロザリーは癇癪を起こして
赤いハイヒールでカウンターを蹴り飛ばした


「信用できないわけではないよ
 君ばかりに負担を掛けさせるのは気が引けるからね

 私自身、君が言う"犬の牧場"とやらを
 一度たりとも見たときがない

 ・・・君は忍耐強くて、芯の通った出来る娘【こ】だ
 だからこそ不安なんだよ
 一人で抱え込んでいるんじゃないかって」



ロザリーは、誉められたからなのか
急に大人しくなった


彼女の後ろに居た茶髪の青年は嫉妬からか
「ハァ?」と言って顎を突き出した



「えぇ~別に抱え込んでいる訳じゃないしぃ~
 一日三時間くらいしか寝れないときもあるけどぉ~
 ナポレオンだってそうだったしぃ~
 べっつにウチがナポレオンみたいになろうとかぁ~
 そういうつもりはさらっさらないけどねぇ~
 愛するペットたちのためなら当たり前だからぁ~」



猫なで声、しかも上目遣いでまばたきしながら
媚びたように所長に話すロザリーを見て
茶髪の男はソファーを蹴飛ばした後に
ガラスの自動ドアから外に出て何処かヘ消えていった




「三時間しか寝ていないのか!
 若いのに無理するな~ロザリー君」


「だぁ~かぁ~らぁ~
 愛するペットたちのためなら
 この命捧げちゃってもいいのよぉ~
 たとえ誰から理解されなくても
 ウチはウチの道を突き進むだけぇ~!」






呆れて腕を組むシルビアは思う



こんなことを言う人間は
十中八九は功徳を積んだことを見せびらかしたいだけだ

ロザリーに腹を立てているから
余計にそう思うからかもしれないが

そもそも100以上の犬を一人で飼うなんてほぼ不可能だ
金を使って召使いたちに世話させているのだろう


そう考えると不安だ

身の丈に合わないことをしたばかりに
その100以上の犬たちがより不幸になるのかもしれない

間違った処方をしたばかりに
「いっそ安楽死させた方が幸せなんじゃないか?」
などと言うことも十二分にあり得る




この施設に収容された犬たちも心配だが
ロザリーが"愛している"犬たちのことも心配になってきた





「・・・だからこそ一度は君の家に訪問したいのだよ
 しかし今日は私たちの都合が合わなくて・・・む?」


ロザリーの機嫌をとり続けるのに必死な所長に
シルビアはその場でテレパシーを送る

(テレパシーとは直接会話しなくても
 意思疎通ができる魔法の術のひとつのことだ)



所長の脳内にシルビアの声が響いて
一瞬所長の会話が途切れたために
青年とロザリーに不審に思われる

しかし、予めシルビアの能力について知っていた所長は
彼女を一瞥するなり、そつなく彼女の指示通りにした



「・・・そこでだね、代わりにこちらにいらっしゃる
 ボランティアの方に君の家を調査してもらおうと
 これからの会議で決めようと思っていたのだよ

 そこにちょうど君が来たから
 私たちが会議する手間が省けた

 どうかね?このボランティアの方はプロ中のプロだ
 もちろん金は取らないし、君に迷惑は掛けない」



「聞いてないですよ!?」と言わんばかりに
唖然とした表情で所長を見る青年の背を
所長は軽く叩いてそれとなく勘付かせた



「はぁ~?何でこんな知らないヤツの
 面倒にならなきゃいけないの?
 自分の部屋を漁られるのはマジで嫌」




所長が挫けずに説得しようと
次の言葉を発しようとした瞬間

突如歌声にも似たものが
横から聞こえてきた



詞はなく、ハミングにも似た声だが
長い余韻を残し、残響は施設の奥まで届く



青年と所長とロザリー、三人が一度にシルビアを見る
彼女は吊り上げるように背筋を伸ばして謳っていた



施設の奥から軽い足音が多く聞こえてきたと思うと
なんと小さな小犬がドアノブに飛びついて扉を開けて
施設中のまだ健康だと思われる犬たちが
シルビアを囲んで尻尾を振りながら座り込んだ

可愛らしい小犬から、逞しい犬まで
皆一同シルビアの声に魅入っているようだ





呼び寄せた動物たちが集合したところで
シルビアは謳うのをやめたが
尚も犬たちは吼えもせずに座り込んだままだ





「ねぇ、ねぇ!
 アンタシルビア!?シルビア=フローラ!?」

馬鹿にしていた女が
かなりの有名人と判明して興奮するロザリー


小さな犬を踏み潰すような勢いで
シルビアの元に素早く駆け寄り
掌を返すかのように媚びたような声で話しかける



シルビアはその目んたまに唾を吹きかけてやろうかと思ったが
ぐっと堪えて「そうよ、初めまして!」と愛想よく接する




ロザリーは甲高い声で狂喜し始めて
次々と下らない自慢と大袈裟な称賛を並べた


「すごい!シルビアに見てくれるなんて
 ウチにはもったいないすぎるくらいだわ!

 だってウチはせいぜい
 有名会社の社長の令嬢ということで
 大金持ちと言うことくらいしか取り柄がないし!

 学校の勉強と並行しなきゃいけないから
 寝る時間少なくて困るんだよね~!
 たまたま勉強の成績が7番目になったから
 それを維持しないと友だちに"マグレ"とか思われるじゃん!
 だから寝る時間を削って徹夜して勉強しているの!

 ちょっと肌が荒れちゃったけど
 別に人間はカッコが悪くても中身がよければいいから
 ウチは全然気にしないよ!ぜんっぜん!」


「へぇ~そうなの!?」


「うん!だって実際―」



シルビアは適当に流しつつ
同じような自慢を数分の間聞いてやった




その間所長と青年は
彼女の豹変振りに苦笑いしつつも
内心腹を立てて口を挟むまいと決心していた










「じゃあいくよ!
 家から十分くらいかかるけど我慢してね!
 大金持ちだから執事たちの車に頼っていて
 運動不足なロザリーだなんて思われたくないから
 わざと毎日歩いているんだけど
 シルビアには関係ないからね、ごめんね!」



どうしてこうも回りくどい喋り方をするのか

何はともあれ、言うだけ言ったロザリーは
茶髪の男が消えたことにもさして気に留めず
自動ドアから出て行って先に彼女の家に向かった




シルビアは一安心した青年と所長に向かって
「あとでまたきますんで、すみません!」と詫びると
両者から「いえいえ」と返答が来た



彼らを待たせないためにも
早速ロザリーの後を追わなければ




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