逃避行 Part3

2011 - 04/16 [Sat] - 21:22

女心はどんなに悲しみで一杯になっても
お世辞や恋を受け入れる片隅がどこかに残っているものだ

―マリヴォー





【シルビア=フローラ】

褐色の肌に長い銀髪が映えるワイルドレディ
勝気ながら上品さも備えるアクティブな女性

獣のような五感と幅広い自然の知識を持ち
詩のない歌声で荒ぶる動物たちを従える




【ロザリー=ピエルス】

金髪カールのお金持ちの女性でそれなりに裕福な生まれ
プライドが高く人前で陰口を叩くことも厭わない

両親のような家族をはじめ、あらゆる人々から反感を買う
かなり自己中心的な性格だが飼い犬たちには優しい















ロザリーの豪邸は
想像通り必要以上に豪華絢爛だった



街の外れの広い敷地は
獅子などのレリーフがある
意匠が凝らされた柵で囲い込まれ

芝生を敷き詰めた庭の中央には
天使を模した銅像の口から水を出す噴水なんてある





シルビアたちをお辞儀で出迎えてくれた
白髭の門番が門を開けると
ロザリーは石畳をコツコツと音を立てて先を急く



向かう先は文字通りの大豪邸

屋根は赤く、出窓に飾られた華麗な花々

玄関らしきドアを潜ったロザリーに続くと
これまた豪華で赤いカーペットが敷かれた
階段が中央から二階まで伸びている





ちょうど、ロザリーの母らしき者がその階段から降りてきた

シルビアが直感的にそう思ったのは
彼女はロザリーと同じ金髪カールで
さらに狐のような目、物凄く似ているのだ

専属の美容師なんてのがいるのだろうか?





ロザリーは階段を上がろうとしているので
当然母とすれ違うわけだが
目も合わせず、言葉も交わさなかった




遅れて、階段を上がったすぐ正面にある
一際大きなドアからシルクハットを被った男が出てきた
かなり高級な黒服を着ている


彼は目を合わせまいと
そっぽを向いているロザリーに腹を立てたのか
突然大声をあげた



「おい!ロザリー!
 お前また捨て犬たちを拾ってきたな!」


洗い物と思われる皿を重ねて運ぶ老年の執事は
驚いて危うくその全てを粉々にするところだった

その他にも、カーペットが敷かれたエントランスに
掃除機をかけていた若いメイドは
軽く悲鳴を上げて彼を見上げる




「一体何匹連れてくれば気が済むんだ!
 もう中庭どころか、この家全体が
 お前の犬のやりたい放題なんだぞ!

 窓に飾った花瓶を倒すのはまだいい!
 彼らを躾けようと召使いたちが手を出すだけで
 あいつらは噛み付いてきやがるんだ!
 昨日、メイド長の指が噛まれて
 病院送りになったんだぞ!」



どうやらロザリーの父親らしい
シルビアは階段の真ん中で足を止めて彼らを見る



「お父様はぜんっぜん分かってない!
 あの子たちは人間不信なだけ!

 噛み付いてくるのがどうしたっての!?
 もっとひどいこと人間にされていることとか
 お父様に言っても分からないだろうけど!」


「あぁ、そうだな!分からんよ!
 いつも不幸自慢みたいに『人間不信かも』と連呼する
 お前とは違うからな!」


「不幸自慢!?本当の事を言っているだけなのに!?
 そうやって決めてかかるから
 あの子たちにも嫌われるんじゃないの!?」



激しい言い合いが始まる

シルビアの他にエントランスにいた人々は
知らないふりをして各々の仕事に勤しむ



立ち尽くすシルビアが二人の目をよく見ると
ロザリーも彼女の父も同じように生気がない
思い返せば、すれ違った母の目にも生気がなかった



よく耳を済ませると
父親が出てきたドアの向こうから
犬の無駄吠えが絶え間なく聴こえてくる・・・




互いに揚げ足を取り、それに逆上して
最終的には父親がロザリーの顔面を
(よりによって)拳骨で殴った後に
捨て台詞を吐いて立ち去った


ロザリーは同じく言葉にするのも憚れる
捨て台詞を吐いた後に
父親が出てきたドアを開いて先行した





シルビアは余計に怒りを逆撫でしないように
さっさとロザリーの後を追う










ドアを開くと、目前に広がる中庭
どうやら外に出たらしい



"石の柵"に手を当てて下を見ると
早速ロザリーが作業用のエプロンや手袋を着こんで
中庭のベンチに座りながら
たくさんの犬の内の一匹にブラッシングをかけていた



穏やかな表情だ





しかし、シルビアは彼女を見て
「良い所もあるのだな」と思う暇もなく
歯を食いしばって怒りを堪える





まず、真っ先に不快感を煽ったのは
始末されていない糞尿の匂い


獣並の嗅覚を誇るシルビアは
この時ばかりは己の能力を怨んだ


特に溜まっているところからは
カビまであって目も当てられない





次に両サイドの階段を駆け上がって
シルビアに飛びつこうとする犬の数々

その中には、興奮してこちらに向かってくる
かなり大きな犬もいた
あれに飛びつかれたら怪我の恐れがあるから危険だ

犬が見知らぬ人にもこうするということは
きちんとした躾がされていない証拠だろう



呪文のように短い歌を小声で歌って
犬たちの興奮を抑えて危機は何とか脱したが




恐らくロザリー本人が犬に飛びつかれても
「あ~寂しかったね~」などと思って躾もしないから
だれかれ構わず飛びつくようになったのだろう



現に、改めて下を見ると
たくさんの犬に、暴力的に纏わりつかれても
菩薩のように頭を撫でてやっているロザリー





おまけにロザリーは
チョコレートをそのまま
犬の群れの中に投げ入れている!

通りで痙攣を起こしている犬がたくさんいるわけだ
最もロザリーは「ただ単に弱っているから」程度にしか
思っていないだろうが










シルビアは階段を駆け下りて
ロザリーに"抱きついている"犬たちを
無理矢理引き剥がす

当然ロザリーは驚いて
シルビアを罵ろうと口を開くが
それよりも前にシルビアが大声で叫ぶ



「アンタさぁ!
 偉そうなこと言っておいて
 ただ甘やかしてばっかりじゃない!

 これならいっそ引き取らずに
 安楽死させたほうがずっとマジよ!
 人と犬、どっちにとっても!」


ロザリーはまさか"有名人"から
このようなキツイ言葉を貰うとは思わなかった

座ったまま"綺麗な顔"を崩して
叫び返すロザリー



「シルビアもそんなこと言うの!?
 捨て犬たちがどのような目にあっているのか
 シルビアならわかるよね!?

 ここにいるのは、躾として殴られて
 傷だらけの子ばかり!
 
 飼い主も手を抜いて
 "ロクな餌"も与えられなかった
 やせ細った子もいるし!

 この子たちの心の傷を癒すことが出来るのは
 人間と同じように接するしかないのは当然でしょ!」



中庭の犬たちは
二人が大声をあげるのをよそに
弱い犬の足を噛み付いたり
怯えたように無駄吠えを繰り返す



「『人間と同じように接する』なんて
 それって勝手な思い上がりじゃない!?

 明らかに人の方が知能が発達している!
 それは飼い犬たちに
 正しい躾や生き方を教える責任があるってことよ!

 ここにいる飼い犬たちは野生じゃないし
 かといって母犬がいるわけでもない!

 動物と完全に対等な関係なんて
 絶対にありえないわ!」


「なんなの!?
 ウチは頭が悪いから
 ウチなりに頑張っても意味が無いっての!?
 上から目線やめて!」


「そういう問題じゃなくて
 アンタの意識の問題なの!

 こんなに中庭荒らされて
 犬たちが暴れまわって
 それでも『この子たちを愛しています』なんて
 歪んでいるわ!
 ただの現実逃避でしょ!」


「こんの・・・!!」





ロザリーは立ち上がって
シルビアの頬を思いっきり叩こうと考えた


だがシルビアは言うだけ言うと
さっさと階段で二階に上がってしまった



シルビアは恐怖心から吼え続けている
犬たちに囲まれながらロザリーに言う


「もういいわ!
 アンタが間違っていることさえ分かれば
 これ以上ここにいる必要はないからね!

 日を改めてまたここに来るから
 そのときはアタシの言うとおりにしてもらうからね!」



「黙ってろ!」「くたばれ!」「死ね!」
「テメェにウチの苦労がわかってたまるか!」
ロザリーはシルビアの背が見えなくなるまで
ひたすら罵詈雑言を浴びせ続けた










シルビアは本来の目的地である
保護施設のところまで急いだが
耳を劈いた吼え声だけは
頭の中でいつまでも反響していた




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