逃避行 Part5(完)

2011 - 04/18 [Mon] - 17:07

女が付属品を棄てると
どうしてこんなにも美しくなるのだろうか

―高村光太郎





【シルビア=フローラ】

褐色の肌に長い銀髪が映えるワイルドレディ
勝気ながら上品さも備えるアクティブな女性

獣のような五感と幅広い自然の知識を持ち
詩のない歌声で荒ぶる動物たちを従える




【ロザリー=ピエルス】

金髪カールのお金持ちの女性でそれなりに裕福な生まれ
プライドが高く人前で陰口を叩くことも厭わない

両親のような家族をはじめ、あらゆる人々から反感を買う
かなり自己中心的な性格だが飼い犬たちには優しい















結局、ロザリーは「何も悪くはない」と
真っ先に自室に帰って不貞寝してしまった


相当長い時間眠っていたようだが
ほんの一時間しか寝ていないような気がする




あの子たちはどうしているのだろうか?

身悶え、覚束ない足取りで
ロザリーを恨んでいるのだろうか?



・・・「現実から目を背いてばかり」か





部屋の扉を開けて
中庭を一望できる場所に出ると
いつものように悲しく吠える犬たちが
所狭しと犇めき合っている


だが、ちょっと違和感を感じる




それをあまり気に留めずに
ロザリーが階段を降りて中庭を見渡すと
なるほど、あれほどあった糞尿が片付いている




・・・が、感心している暇もなく
次々と犬は遠慮もなく新しいのを垂れる



せっかく誰かのおかげで綺麗になったのに
またあのようになるのかと考えれば気が滅入る

ロザリーは呻き声とともに溜息一つ
生まれて初めて、飼い犬たちに腹を立てた




ふと、ベンチの方を見ると
何か四角いものが入っている
ありふれた黒い袋の中が置かれていた


ロザリーは足を小犬に舐められながら
袋の中にあるものを取り出す




右手で取り出したものは
極々基本的な「犬の飼い方の教書」だった


・・・ロザリーの歳から言って
この本は幼稚すぎる

一種の皮肉とも言えなくもない
だとしたら、かなりスケールの大きな皮肉だ




ページをめくる

「えさはドックフードをあたえましょう」
「まいにちさんぽにつれていきましょう」
「トイレのばしょはきめておきましょう」

・・・なめられている





中庭の噴水に
この本を投げ入れてやろうかと思った

噴水の方に向かおうと振り返ると
今にも死にそうな小犬が目にはいる


昨日、この子の命を助けて欲しいと
医者から残酷な宣告を聞くのが怖くて
あえて保護施設に飛び込んだのも無駄だった




さて、ロザリーに残された道は
この子を連れて獣医の所に行くことだけだ

それには勇気がいる
恐らく、この子の命は一月と持たない



痙攣するこの子をロザリーは抱き上げて
彼女は暫くの間立ち尽くしていた・・・




















「―以上のことから
 保護施設を増設するより
 捨て犬を出さないことを
 一般市民に呼びかけることを先決することが
 理想的な流れとなります

 保護施設があると
 市民の間に『捨てても引き取ってくれる場所がある』と
 忌まわしい感情が蔓延してしまうからです

 現状では・・・・・・・・・」


「あの、シルビア様?」


「・・・むぅ?」


「・・・今日はどうしたんですか?
 立ったまま居眠りなんて
 いつもはしないのに

 毎日こちらまで来るのに
 無理していらっしゃるのではないですか?」


「いえ、今日はちょっと・・・ね
 調子が悪いだけだから心配しないで!」


「はぁ・・・?
 では続けてください」



シルビアは投影機から映し出された資料を元に
所長さんや元気な青年を含む
施設のスタッフたちに向けて
これからの方針について
具体的な説明をしている





「そもそもなぜ捨て犬が増えるのか?

 私はこれを"現代人が抱えるストレス"によるものだと
 ここで主張させていただきます


 少々話はずれますが
 幼少時代虐待を受けていた者が子どもを授かると
 その者も子どもに虐待を加える場合が少なくないそうです

 虐待による、虐待の連鎖ですね

 私は、動物に対する虐待も
 人間の子に対する虐待も
 動機は同じものであると考えます


 虐待とまではいかなくても
 身内の者から加えられるストレスを発散するために
 身内のうちで自分より下等の存在に
 八つ当たりすることは
 よくある話ですからね」



一瞬、ロザリーの生気の無い目を思い出した後
シルビアの説明は続いた




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