「オマエには才能がある」 Part1

2011 - 04/29 [Fri] - 20:56

どなられることを
怒られると思うか
感謝ができるかで変わってくる

―鬼塚勝也





【ロア=フローラ】

口が悪くイタズラ好きで高飛車な男
髪を茶に染めて肉体は引き締まっている

裏では血の滲む地道な鍛錬を重ねており
プレッシャーに弱い繊細な一面も


【ジョージ=ベネット】

口髭を蓄え、老眼鏡を着けた、ロアがコーチを務めるジムの経営者
側頭の白髪は無事だが、禿げた頭を隠すために黒帽を愛用

ボクシングの元王者の名に恥じぬ、老いて尚強靭な体を持つ
ジムに通う人々の成長を見るが楽しくてやめられないという















「お前やる気あんのか!?」

「はい!」

「手抜きしてねぇよな!?」

「はい!」

「…実はサボってただろ?」

「はい!…あ、違います!!」

「だから生返事ばっかしてっから
 そんな風になんだろ!!」

「…」



いつものやりとり



ビルの一室を借りて経営している
ロアと多数の教え子たちがいるジムの中は
昼間でも照明がついているから
手首にあるテーピングの跡もくっきりとみえる



窓の外ではビジネスマンたちが車に乗って行ったり来たり
一列になってひたすら腕立て伏せを繰り返す練習生たちは
ロアが気弱そうな教え子の一人に放った喝に驚いて彼を見た



「どうせオレが指示したことも
 『はい、はい』って適当に流してんだろうな!

 オレが目を離すとすぐにサボりだすどころか
 ぜんっぜん喋らねーしよ!

 オマエは何のために練習してるんだ!?」


部屋の片隅にもたれかかりながら
腕を組むロアが俯いている教え子に聞く

だが彼からは返事の一つもなければ
何か考えているような素振りもない


「はぁ…払った金がもったいねーから
 仕方なくやってんのか?

 だったら帰れ、時間の無駄だ」


呆れたロアはやる気のない教え子をそのままにして
事務室の扉の方に向かう

鍛錬に精を出していた他の教え子たちは
ロアと目を合わせないようにしながら
彼が事務室の扉を開けるのを待った



扉の閉まる音が、一瞬だけの静寂に響いた後に
すぐさま練習生たちの掛け声が始まる

ロアに叱られた教え子は
何事もなかったかのように彼らに交じって
渋々と腕立て伏せを始めた







「…ったく、根性ねーな…マジで…」


照明の音がジリジリとうるさい
安っぽい事務室の赤いソファーに体を投げ打ち
疲労気味のロアが愚痴をこぼす

間に合わせ程度にあるデスクの上に散乱する
借金の請求書、ジムの広告チラシ、練習生の名簿などなど…


「おうおう、また怒鳴り散らしたのか?」


その笑顔は数多くの試練を耐え抜いた老人の心模様
「コーヒーでも飲むか?」とまだ熱いマグカップを差し出しながら
ジムの経営者であるジョージが向かいのソファーに座った



「そうキツイ言い方をなさるな
 あの子たちはおまえさんに憧れて
 このジムに通っているのだからな」

「べつに、オレは広告塔でもなんでもねーし」


コーヒーをゴクゴクと音を立てながら
ロアはぶっきらぼうに飲み干した


「…だがね、あの子たちがおまえさんに恐怖心を抱くと
 当然やる気がなくなり客も減る、それは避けたい
 格闘技で食っていくと覚悟を決めたダマではないからのう、彼奴ら」

「いいんじゃねーの?来たい奴だけ来ればいいし
 オレも金さえあればそれでいい、なんて奴には教えたくねぇ」


ロアは金や世間の評価が絡んだ現実的な話を嫌う
彼は潔白でプライドが高いのだ


良くも悪くも、己の体一つで
善悪も、生活も、人生も決まる
戦いというある意味狭い世界で生きてきたからだ
大抵のことは気合と努力でなんとかなると思っている
(これがしばしば、正反対の思想を持つ
 兄のウィッシュとの喧嘩の火種になるのだ)


「そういうやる気がある連中の目に留まるよう
 今は有名にならなければダメだ

 このジムが潰れたら元も子もない、そうだろ?」


ジョージが怒り心頭に発しているロアを宥めるように
足を組んで笑顔で諭す


「…まぁ、そうだな」

「分かってくれるならよい」


座ったまま体を反らして
天井の白熱灯を見上げるロアは
ジョージを視界に入れることもないまま適当に返事をした















数日後、ジムの入口に青いニット帽を被った
一人の青年が立っていた

どうやら見学に来たようだ




汗をタオルで拭きながら歩いていたロアは
見ない顔の青年を確認しては片手をあげて挨拶した


毎日のように押し寄せてくる
ロアに憧れた若者たち

彼もその内の一人だろうと見当をつけて
期待を膨らませるロア

新しい教え子には
ホネがあるのか、それともないのか…




ロアが青年と二、三歩まで距離を縮めると
彼は青年に何か違和感を抱いた


雰囲気…堂々とした威厳に満ちた態度だが
どうもそれではないようだ

彼の立ち方が不自然だ
足が妙に真っ直ぐというかなんというか…



考えても仕方がない、と
ロアは笑いながら青年に一言尋ねる

「どんな用事でここに来たんだ?」


青年は白い目に熱い光を灯しながら
はきはきとロアの質問にこたえた
「ここのジムに入会しに来ました!」



お、やっぱり

ロアは口の両端を思いっきり吊り上げながら
熱の入った青年の態度に感心する



コイツは教え甲斐がありそうだ、と密かに喜んだロアであった




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