無いなら無いで…

2011 - 07/12 [Tue] - 23:18

夢を追えば当然疲れる



【ウィッシュ=フローラ】

無邪気さとニヒルさの間で気ままに生きる世捨て人
催眠療法のために両性から好感を持たれる中性的な容姿をする

極限まで研ぎ澄ました色のない光<魔力>を自由自在に操り
魔力を神のように崇める独特の宗教観を持つがどこかぬけている


【コーネ=フローラ】

芯が強く、聡明で笑顔が似合う金髪の女性
人助けに喜びを感じる純粋な一方、我儘な一面も

事実上の奴隷だった彼女は、死の直前ウィッシュと出会った
幽霊となって今は彼に寄り添うように暮らしている


【レイティア=ノーノ】

人魚の少女、金髪、清楚な感じが漂い慎み深い
何時までも子どものままでいられるように、長年眠り続けていた

目が覚め、ようやく大人になることを受け入れた彼女は
ウィッシュたちと暮らす中で、心身共に成長してゆく


【シャミッソー=ヘッセ】

瑠璃色の髪を短く結えた、色白のエルフの優男
偉大な画家を目指して、気の向くままに放浪している

遠慮を知らず、所構わず大声をまき散らす迷惑者で
周囲からしばしば白い眼で見られるが、絵描きとしては一流















『―夢は見るものではない、掴む者だ!』

『―夢も希望もない人間に
 生きる価値などあるのでしょうか?』

『―信じていれば望みは叶う!』

『―夢を持った瞬間、人は変わるのでしょうね』

『―夢を持つ人は、いつだってカッコいいし美しい』





「…」

「レイティア、手当たり次第にリモコンのボタンを
 ポチポチと押すのはどうかと思うよ?
 見たい番組も無いなら、ウィッシュみたいに
 魔法の修行したり勉強したりしてみなよ!」

「…ほっといて」




レイティアは並べたソファーの上に寝そべって
やる気もなく尾びれをひらひらさせている



時は午前10時頃

ウィッシュは部屋に閉じこもったきりだし
コーネは外で花畑の手入れをしている
お節介を焼いた、傍にいるシャミッソーも
これから外に出掛けるというらしい


「何かしないきゃ…」とは思うものの
レイティアは何をするべきか迷っている
どうしたら有意義な一日と成り得るか…




「レイティア~、そんな言い方はないよ~
 キミは若いんだからさ
 もっと色んなことに挑戦していかなきゃ!
 幅広い視野と計画的な行動力を以って
 夢を実現させるための力を培うのさ!」

「ふぅん…」


ソファーに俯けになって
やるせない声を出すレイティア

誰も見てないテレビからは
雑音ばかりが鳴り続ける




「…キミは、夢があるかい?」

「ない」

「そうか…
 まあ、アンテナを高くして
 面白そうなことにブチ当たっていけば
 自然とやりたいことが見つかるとおもうよ
 それじゃ、ボクは行ってくるね!」

「はーい…」


いつものように、シャミッソーは
言うだけ言ってすたすたと立ち去った



そのままレイティアは
刺激が強いテレビの音を聴きながら
ちっとも心地よくない眠りにおちた















ウィッシュは自室の机の上で
分厚い本を広げながら
壊れたガラスのコップと
その破片らを睨んでいる




控えめにドアを叩く音がする
「ウィッシュ、入っていい?」と
レイティアの声が続けて聞こえた


「うん、いいよ」
ウィッシュがそう言うと
しゅんとしたレイティアが
少し気まずそうに彼の椅子の隣に来た




「…なにやってるの?」

「あぁ、コップが割れたから
 どうにかして直せないか考えているんだ
 紋様の部分だけ別の物質でできているせいか
 これがなかなか難しい…」


腕を組んで、訝しい目をするウィッシュが
レイティアにはとても新鮮だった


「難しい?ウィッシュならできそうなのに
 ほら、錬金術?とか使えないの?」

「ん~錬金術は苦手なんだよな~…
 錬金術は魔法の知識の他にも
 元素記号やら化学式やら
 果ては物理化学などの知識も要求されるし…」

「ふぅん…幅広い視野、か」


脳裏にシャミッソーの
あのムカつく顔がよぎった


「そう、幅広い視野なんだよな
 俺はあらゆる世界に赴いて
 色んな魔法使いを知っているんだけど…
 中にはパッと手を合わせただけで
 一瞬で物を直すような人もいるしね
 絵本の代わりに錬金術の本を読んでたとか
 天才かつ努力家だよ、アイツは」


「…やっぱり天才は、小さいころから
 天才に相応しい行動をするのね…
 それに比べて、私なんか…」



レイティアの言葉が落ちると
すぐにウィッシュは両腕をおろして
彼女の焦燥とも不安ともとれる顔に注目する



「そう?レイティアも天才だと思うけどな、俺は
 生来の美声だし、歌だって上手いよ」

「でも…」


レイティアは片手で自分をきつく抱いている


「みんな私の歌が上手いって言うけど…
 でも、私より上手い人は、私くらいの時には
 音楽学校に通って夢に向かって一直線でしょ?
 私は何もしていないし、…何をすればいいか分からない」

「だよなぁ…、今流行ってる韓国のアイドル達は
 子供なのに死ぬほどの猛特訓しているらしいし…
 きっと本気で夢を叶えるために頑張っているんだろうね」

「うん…
 だから、私も夢を持って…もっと、ね…
 夢を追い続けられる人に、なりたいなあ…」


照れくさそうに、上目遣いをするレイティア
ウィッシュはにわかに微笑んだ



「何の夢?音楽家とか?」

「うん…そうかも…
 でも、はっきりなりたいわけじゃ…」

「そう?なら、夢を追うのは
 もう少し後でもいいんじゃないかな
 ―レイティアには無理だって
 言ってるんじゃないよ」

「え…?でも、出来るだけ早いほうが…」



ウィッシュは指を鳴らして
レイティアの背後に
魔法で椅子を生み出した

「座る?」と彼が聞くと
レイティアは頷いて座る





「夢を持たなきゃ!って
 あんまり思い詰めると
 逆にプレッシャーになってしまうよ
 無いなら無いでいいものだし」

「そ、そうかな…?
 夢を持たない人間なんて不幸で
 何もできないまま死ぬんじゃないかしら
 まるで人にこき使われているだけで」

「ふふ、愛する人のために働く
 これだけでも幸せって人はたくさんいるよ」


納得いかない表情のレイティアの前で
ウィッシュは皮肉な笑みを浮かべる


「…夢を追う人が素晴らしいって風潮は
 俺に言わせれば一種の催眠術だね
 …美や富への見苦しい欲望を
 夢と言う言葉で飾り付けて刺激するんだ
 夢を持った気になっている人々から
 金を搾取するためにね」


寝顔に水を掛けられたように
レイティアの顔色が変わった


「冷静に考えてみればいいさ
 世の中、口先だけで中身が伴っていない奴らが
 いくらでもいるだろう?
 『この学校に入れば夢が叶う!』って"応援する"奴や
 金など要らないって演説をしておきながら
 何のためらいもなく入場料をとる自称"勝ち組"
 奴らに俺たちの人生の何が分かる?」


「…」




「…まぁ、俺も昔そうだったけどね
 『アイツらのように生きたくねぇ!』って
 否定するために、アイデンティティーのために
 必死に夢を語っていたよ」


最後にウィッシュは
柔和な顔つきでこう言った
「だから、無いなら無いでいいのさ
 そのうち見つかるさ、きっと」


「…うん」

「悪いね、長々と話して」

レイティアが頷く

「…怒った?」

「…ううん」

レイティア特有のはにかみ笑いが出た
照れ笑いにも似ているが
これは彼女のいつもの笑いかただ















「やや!?レイティアが絵を描いてる!?」

翌日、レイティアはリビングの椅子に座りながら
テーブルでコーネが生けた花の絵を描くレイティア

たった一本の鉛筆を使って
ありふれた白紙の上で


部屋に入ると同時に
レイティアの絵を覗き込んで
シャミッソーは(いつものように)大声をあげたのだ


「…文句ある?」

「いやいや!無いよ!
 もしかしてキミもボクのように
 画家を目指すつもりかい!?」

「誰がアンタの…!」

「『アンタのような才能を持つ人には
  私は到底及びません!』
 おっほぉ~!嬉しいこと言うね~!」

「ウザ…!」

シャミッソーを殴り飛ばさんばかりの怒りを
鉛筆を折らんばかりの力に変えるレイティア


「まぁまぁそんなに青筋立てないでよ!
 夢は実現するとは限らないんだし
 必ず叶えなきゃいけないものでもない!
 それを伝えたかっただけさ!
 (前にウィッシュがそう言ってた!)」

「とってつけたように…さっさと行って」


レイティアは、いつか彼がそうしたように
絵に描くことに集中して喋らなくなった


シャミッソーは何故か嬉しそうに
その部屋を後にした





(The end)




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