愛するがゆえに

2011 - 07/17 [Sun] - 20:27

たった一言で壊れるほど脆くはない




【ウィッシュ=フローラ】

無邪気さとニヒルさの間で気ままに生きる世捨て人
催眠療法のために両性から好感を持たれる中性的な容姿をする

極限まで研ぎ澄ました色のない光<魔力>を自由自在に操り
魔力を神のように崇める独特の宗教観を持つが、天然でナイーブ


【コーネ=フローラ】

芯が強く、聡明で笑顔が似合う金髪の女性
人助けに喜びを感じる純粋な一方、我儘な一面も

事実上の奴隷だった彼女は、死の直前ウィッシュと出会った
幽霊となって今は彼に寄り添うように暮らしている


【レイティア=ノーノ】

人魚の少女、金髪、清楚な感じが漂い慎み深い
何時までも子どものままでいられるように、長年眠り続けていた

目が覚め、ようやく大人になることを受け入れた彼女は
ウィッシュたちと暮らす中で、心身共に成長してゆく


【シャミッソー=ヘッセ】

瑠璃色の髪を短く結えた、色白のエルフの優男
偉大な画家を目指して、気の向くままに放浪している

遠慮を知らず、所構わず大声をまき散らす迷惑者で
周囲からしばしば白い眼で見られるが、絵描きとしては一流














「♪薄紅色の可愛い君のね 果てない夢がちゃんと
  終わりますように 君と好きな人が
  百年続きますように」


レイティアがフローラ宅の庭にある
大樹の陰で歌うなら
必ず大樹の枝いっぱいに
小鳥たちがやってくる


すぐ傍で耳を澄ませながら立ち尽くすウィッシュ
二人は手が届くくらいの距離にいる
毎日会って、会話して、それでいて子供っぽい彼女が
この時ばかりは神秘的なので
淡い感情を抱かずにいられない



コーネはやや遠くから
木でできた長椅子に座って
レイティアの歌を聴きながら
ウィッシュの満足そうな顔を見て
同じく満足そうな顔になっている



刻はちょうど夕暮れ前
少し青い空が霞みはじめた頃



レイティアは歌うことが大好きだ
その度に必ずウィッシュたちが褒めてくれるから

敏感で不安定な年頃の少女の心は
もっと褒めてもらいたいと言わんばかりに
自ら進んでリクエストを募り、練習して
そして彼女の歌声で、彼女の存在を示す



やがてレイティアが深く息を吐いて
充実した気持ちのまま歌が終わる



「おつかれ、良かったよ
 いつも聴いている曲だけれど
 やっぱり生で聴くのは一味も二味も違うね
 それもレイティアが唄っているなら尚更」

少し早口で喋るウィッシュ

「えぇ~そんなことないよ
 あんまり誉めると恥ずかしくなっちゃう」

頬が赤く染まったことを両手で隠すレイティア
だが満更でもないようだ

「いやいや、お世辞じゃなくてさ
 唄っている時のレイティアは
 まるで慈母のような雰囲気みたいだからね
 俺の妹(シルビア)とも十分張り合えるくらいだし
 もっと自信持っていいと思うよ」

「いや~んもう!恥ずかしいよぉ~!」





大樹の枝で羽を休める
賑やかでふくよかな小鳥たちは
ウィッシュの言葉に照れ笑いするレイティアを見て
ちょんちょん、と首を傾げている


普段はお淑やかで、手を押さえて笑うレイティアが
最近はウィッシュの甘い言葉に酔ったように
白い歯を出して笑っているのだ




「最近、仲良いよね、二人とも」

ベンチに座ったままコーネが言った


「そうかな~?
 ウィッシュが褒めちぎるから
 私も嬉しくなっちゃって…」

頬が火照っているレイティアは
ウインクして舌を出す


「レイティアのそういう所が好き
 褒められても調子に乗らない所が」

コーネがレイティアに言った後
ウィッシュはいたずら小僧のように笑い
そしてこう言った



「まぁね、レイティアは可愛いし
 なかなか俺のタイプの性格だからね」


「そう…?」

それまで穏やかな微笑みを湛えていたコーネが
一気に"唖然とした"表情になった
泣きそうなのを堪えているようにも見える



「…!ゴメン!コーネ!!
 コーネが嫌いになったって訳じゃない!!」

ウィッシュは傍にいたレイティアを手でどかしながら
一歩前に出て慌てて体栽を取り繕う

レイティアは顔から血の気が引いて
両手を胸にあてながら後ずさりした


「うん、分かってるよ
 ウィッシュは、そんなこと言わない
 私、分かってるから」

再び彼女の顔に笑顔が戻るのが
ウィッシュには余計に痛ましかった



「いや、本当にごめん!
 謝って済むものじゃないけど、本当にごめん!」

「いいよ、気にしてないから
 …そろそろ晩御飯のしたくをしないと、ね」

ゆっくりと立ち上がるコーネを見て
ウィッシュは胃腸が切れるような思いをした

蒼褪めたウィッシュが一歩も動かない中
コーネは家の玄関を開けてその場からいなくなった




「くそ…レイティア、ごめん
 君は何にも悪くないのに、俺のせいで…」

片手で思いっきり自分の太ももを引っ叩いて
ウィッシュは小さな声を捻るように出した

「だ、大丈夫よ
 コーネだって気にしてないよ
 ウィッシュも謝ったし…」

「…だといいけどね」




気まずい雰囲気になったので
レイティアは後は何も言わずに
海岸にある自分の家の所に帰っていった


道を歩いて、レイティアが遠くで点になるまで
ウィッシュは激情を抑えながら歯を食いしばっていた















「常春の楽園にあえて白い渡り鳥を放つミスマッチ!
 しかし!それが俗世からの離脱を解脱を強調し
 より自由さと永遠さを表現しているんだ!
 そう!これを描かずに今晩眠ることなど不可能!」


シャミッソーは、この小さな世界をいつまでも廻る
白い渡り鳥を見て狂喜している

白い鳥はシャミッソーの頭上を飛び
影が彼の額を掠めて
そして遠い水平線へと飛んでゆく


「やや!?あれはウィッシュ!?」


シャミッソーが正面に視界をやったところに
丁度良くウィッシュの姿があった

小高い丘に広がる花畑と海岸の間の草原を
彼は不規則にふらふらとしている



「お~い!ウィッシュ~!
 何しているんだ~い!?」

シャミッソーは声を張り上げながら
全速力でウィッシュの方に向かう



はっとしてウィッシュが振り返ると
息絶え絶えに走るシャミッソーが手を振っている




「ウィッシュ~!はぁ…はぁ…
 なんでこんなところを
 猫みたいにうろついているんだい?はぁはぁ…」

ウィッシュに追いついたシャミッソーは
呼吸が乱れたまま、膝に両手で体重を乗せている


「さぁ?なんとなく…」

「なんとなく?」


見上げるとウィッシュは眉を顰めている
額への皺の寄せ加減から言って
これは相当怒っているに違いない


シャミッソーは上半身を起こして
いつになく真剣な顔つきで
ウィッシュと正対する



「…ウィッシュ、怒ってない?」

少しも遠慮をしないで
シャミッソーは彼に語りかける


「怒っていない、って言ったらウソになるね」

「やっぱり怒ってるんじゃないか!
 なにがあったんだよ!?」


ウィッシュは冷静な態度で
しかし明らかに怒ったような声で
シャミッソーの質問に答える


「ちょっとしたことだ、いつもと変わらない
 一晩寝れば、多分忘れるだろう」

「相変わらず強がりだな~キミは!
 それとも、プライドが高いと言うべきか?」


シャミッソーが呆れたように言った後は
ウィッシュは黙りこくるばかりだった



「当ててやろうかい?
 コーネかレイティアといざこざがあったね?
 …クールなキミが人に言われて怒ることなんか
 まずあり得ないだろう
 でもキミはプライドが高いから
 キミ自身に対して物凄く厳しい」


「…まぁ、その通りだね
 いつものように失言をして
 そして後悔している」

図星を差されたのか
ウィッシュはそっぽを向いている

「でも、いつもその繰り返しで
 俺は全く進歩が無い
 しっかり反省しているつもりでも
 同じような失敗ばかり繰り返してしまう」

吐き捨てるようにそう言った


「別にキミがどう思うかは良いけど
 そんなことより謝ったのかい?」

シャミッソーはウィッシュの目の前に回り込む

「謝ったよ」

「許してもらえた?」

「…多分、許してもらってない」


シャミッソーはウィッシュの両肩を掴んで
自信満々に宣言する


「そんなに悩んでるんだったらボクに任せなよ!
 さあ!キミが犯したミスと謝りたいコトを
 ボクに言ってごらん!笑わないから!」

ウィッシュは内心『無駄だ』と諦めつつも
シャミッソーの気持ちを『無駄に』しまいと
不本意ながらも彼に告白した


「…コーネの前で『レイティアがタイプだ』って
 堂々と言ってしまったんだ
 コーネは"泣きそうな顔"になったから
 慌てて謝って許してもらえたけど
 心の中では絶対傷ついているだろうな…」

「はは~ん、ちょっと口が滑ったのか
 分かる分かる、ボクだってよくある」

自分と共通の欠点を持っているからか
妙にウィッシュに親近感が湧いたシャミッソーは
思わずニヤリと口が吊り上がる


「それで、なんて謝りたいんだい?」

「多分どんなに謝っても
 許してもらえないだろう
 …何度『これからは気を付ける』って
 頭を下げて宣言したことか
 しつこく言っても、逆にもっと嫌われるだろうし」

ウィッシュの目は虚ろで
両腕を組んで立っている


「そうか、じゃあ、ボクのお任せってことでいいね?」

「…あぁ、任せるよ」

「よ~し!じゃあ早速コーネの所に行ってくるよ!
 ゆっくり草原の中で大の字になって
 何も考えず休んでいるがいいさ!」


シャミッソーは言うだけ言うと
全速力でウィッシュの家の方まで駆けてゆく

ウィッシュは一瞬呼び止めようと
手を伸ばして声を出そうとしたが
結局躊躇して彼を見送るだけだった















「コーネが歌ってほしい歌ってある?」

ダイニングキッチンで
流し台で野菜を洗いながら
レイティアが嬉々として問いかける

「私からのリクエスト?何でもいいの?」

コーネが野菜を包丁で切りながら答える


「何でもいいよ
 いっぱい練習して歌いきってみせるから」

「よーし、それじゃあ
 "A Whole New World"をリクエストしたいな」

「…何それ?」

「アラジンのテーマ曲、ディズニィーの映画の」

「…あぁ、あれかぁ!良いよねあの曲」





突然、リビングのドアを開いて
激しく息をするシャミッソーが部屋に入った

はぁ、はぁ…と息をしながら
汗だくになったシャミッソーを見て
二人は何か悪い知らせがあったかもしれないのかと構える



「シャミッソー、どうしたの?」

コーネが"唖然とした"表情で問いかけると
シャミッソーは片手で壁を押しながら答えた

「…ウィッシュが謝りたいことがあるんだってさ」

彼らしからぬ真剣な表情で述べるシャミッソー

「…?また日本にいる神様と一緒に
 月見酒でもする予定でも入ったのかな?」

「違うよ!キミに関わることだよ!」

「えっ…?」


シャミッソーが尋常ではない様子で話すものだから
二人はもはや料理どころでは無くなってしまう


「コーネを傷つけてしまったことで
 ウィッシュは物凄く思い詰めているんだ!
 もう謝っても許されないんじゃないかって…!」


シャミッソーは懸命に彼女に訴えかける
だが、当のコーネは
「なぁんだ、あのことを気にしていたんだ」と
半分呆れて、半分笑っている


「ウィッシュ、どこにいるの?」

「あいつは草原の辺りをうろついているよ」

シャミッソーは拍子抜けしている
ふと、自分が汗をかいて
体中暑くなっているのを思い出した


「じゃあウィッシュに伝えておいて
 怒らないから、今夜バルコニーに来てって」

「あぁ、いいけど…」
彼は納得いかない顔をしている
そして「気にしてないの?」と口にした


「ないよ、全然」

「そ、そうか…大げさだな、アイツも」

「大げさ、と言うよりは…」

コーネは"本当に"落胆したような顔をして
少し低い声で喋りだす

「悪いのは、私の方かも
 いつもウィッシュばかりを求めて
 他にあまり執着が無いから
 ウィッシュにプレッシャーをかけているかもしれない」

(うわぁ…ボクが関わっちゃまずかったかな…?)


「オーケーオーケー…
 早速ウィッシュに伝えてくるよ
 時間を無駄にしてすまない二人とも」

シャミッソーはそそくさとその場を後にする

「ううん、大丈夫だよ
 優しいね、シャミッソーは」

コーネがシャミッソーの背に語りかけると
彼はきまり悪そうに頷くのであった




「『ウィッシュばかりを求めて』ってどういうこと?」

シャミッソーが居なくなったところで
レイティアが恐る恐る聞いてみる

「えっと…好きすぎて迷惑をかけちゃうことかな?」

「ふぅん…?」
レイティアが首を傾げる

「さぁ、晩御飯を作るのに戻ろう
 今度ゆっくり話してあげるから、ね」


コーネは再び野菜を切るのを再開した
レイティアはもっと詮索したかったが
野菜を切るコーネの姿を見て
彼女も野菜を洗うのを再開した















その夜、ウィッシュとコーネはバルコニーで
それぞれのリラックスチェアでくつろぎながら
流れ星を仰ぎつつ手を繋いでいた



「ねぇ、私がいると迷惑?」

「そんなことない」

「信じていいの?
 実は好きじゃないのに
 責任感から仕方なく、じゃないよね?
 もし迷惑だったら私、改めるから…」

「…俺は誰からも理解されない
 理解しようとする人さえこの世にいない
 でも、コーネだけは違う
 それどころか無条件で愛してくれる
 だから、迷惑でもなんでもない、幸せさ」

「ほんとうなの?…嬉しい!」


コーネはウィッシュにもたれかかり
ウィッシュはコーネの頬に顔を寄せる


「『コーネを傷つけたから』って言ったけど
 冷静に考えると俺が嫌われたくないだけなんだよね
 …悪いね、いつもカッコつけてばかりで」

「ううん、それでいいの」



二人は静寂と夜風の中で
いつまでもお互いの優しさを感じていた





(The end)




No title

sunさん こんばんは☆”

どきどきしながら読みました。
この先どうなっちゃうんだろう?って心配で々

>>好きすぎて迷惑をかけちゃう

この言葉・・・すごくわかります。
好きで好きで大好きで、その分重いだろうなぁ~ってね

でもよかった(^◇^)
ハッピーエンドで嬉しいです♪

優さんへ

本当は、誰にでもある些細な出来事ですし
すぐ仲直りもできるのも分かっているはずです

ですが、当事者にとっては
客観的にそんなことを考えられる余裕もなくて…(><
特にそれが"許してもらう立場"なので尚更
私自身、何度このような間違いを犯したことか(;;


コーネの場合、(能力的には)立場が上のウィッシュを好きになるなら
それは彼に"守ってもらいたい"という意図も少なからずあります

ウィッシュはナイーブなので、彼女の気持ちを察しますが
コーネは心の底から彼を愛しているので
自身のためにウィッシュが傷ついて欲しくないという葛藤が生じます


かな~りドロドロした人間関係にも見えますが
それはお互いを思いやっているがゆえの幸せな問題
ですから二人は必ずハッピーエンドを迎えるのです(・ω・*

長々と失礼しましたm(__)m

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