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2011 - 08/02 [Tue] - 23:47

人の不幸は甘い蜜、それを啜るのは同情する偽善者




【アレラーモ=ピストイア】

茶髪のセミロングヘアを持つ、そばかすが特徴的な女の子、15歳
村人たちに大人気のパン屋をたった一人で営んでいる

村人に助けられながら弟を育て、寝る間も惜しんで金を稼ぐのは
優しかった亡き両親の為に墓を作るため


【アンドレア=ピストイア】

茶髪のボブカットを持つ幼い男の子、アレラーモの弟、5歳
いつも姉を手伝うつもりが、逆に姉の仕事を増やしている

それもそのはず、両親の顔は写真だけでしか知らなので
姉に構って貰いたい一心で彼なりに孤独と戦っているのだ




~あらすじ~

3日後に隕石が衝突すると聞いたアレラーモは
何も知らない弟のアンドレアに八つ当たりをしてしまう

翌日、自殺用の睡眠薬を買ったアレラーモは
それを服用する前に何かやり残したことがないのかと
ふと母親が遺したアルバムを手にとった

生前、アレラーモの母は死期が迫ろうとも
一日でも長く家族と共に生きたいと願い続けていた
母は、笑顔で撮った写真を遺すことによって
子どもたちの将来を励まそうとしたのだ

アレラーモは、家族の愛に涙を流し
彼女も母のように死が目の前に迫ろうとも
最後まで"やるべきこと"を果たすと誓った

振り返ると孤独な姿のアンドレアがいた
彼女が今までの行いを心から詫びると
死の恐怖から少しだけ救われたような気がした















(この世界の占いに関する魔法は
 他の世界のそれとくらべて非常に発達している
 占い師の言葉を、誰もが信じてしまうほどに
 …今回のレポートはこれをテーマにしようかな)



ウィッシュは深緑の喬木がそびえる台地に立ち
煉瓦の煙突が並ぶ田舎町を眺めている

そこには大層有名な占い師が住むという
今回の研究の為の取材と言うわけだ



(【ウィッシュ=フローラ】

 無邪気さとニヒルさの間で気ままに生きる世捨て人
 催眠療法のために両性から好感を持たれる中性的な容姿をする

 極限まで研ぎ澄ました色のない光<魔力>を自由自在に操り
 魔力そのものを崇拝する変わり者だが、天然ボケでナイーブ)



この世界の時間のリズムは
ウィッシュが暮らしている世界や
棗がいる日本などがある世界と同じだ

水をよく含んだスカイブルーで描いたような
どこか哀愁を帯びた空に流れる羊雲を見ては
ウィッシュは先ほど自宅で食べた
キノコのスパゲッティ―の味を思い出していた




ウィッシュが今いる場所は
魔法で世界の間をワープするのに最適な
魔力溢れる天然の場

大樹の影が涼しげな憩いの場となっている
とても空気が美味しい場所だ


馬車が通る道の代わりに
獣道が村の方まで伸びている

夜になったら星が降りそうなくらい
綺麗な天気なのだから
どうせならのんびり歩いて行こう、と
狭い道をマイペースに歩んでゆくウィッシュであった








ふと、草むらの中で四つん這いになっている
エプロンと三角巾を着けた茶髪の人を見かけた

小柄な身体とセミロングヘアから推測するに
思春期真っ只中の少女だろうか


彼女は何かを必死に探しているらしく
手当たり次第に草むらを
手で乱暴に掻き分けている

彼女が、歩みを止めたウィッシュの方向を向いたとき
唇を震わせながら、辺りを見回す
そばかすの少女の表情が目に入った


その少女こそがアレラーモなのだ




もしかしたら、眼鏡かなにかを失くしたのかもしれない

そう思ってウィッシュは草むらの中に足を踏み入れて
血眼になっている少女の前に立って訊いてみる


「あの、何か探し物でも?」

はっと我に返ったアレラーモは
男か女か見分けがつかない"彼"を見上げる

綺麗な紋様がある、白い半袖のシャツを着て
さらっとしたグレーの長ズボンを履いているウィッシュは
彼女にとっては初めて見る恰好なので少し奇妙だった


「はい、ある木の実なんですが
 どうしても、どうしても見つからなくて…
 元々あまりない木の実だから
 もうこの辺にはなくなってしまったのかも…」

どうしようもなく悲観に暮れる彼女を見て
ウィッシュはゆったりとした微笑みを湛える

「どんな木の実?良かったら手伝おうか?」

「ほ、ほんとうですか!?」


四つん這いからいきなり立ち上がって
アレラーモは思わず叫んだ


「うん、もちろん
 それで、どんな木の実なのかな?」

「ありがとうございます!
 本当にありがとうございます!
 あたしが探している木の実は―!?」

「木の実は」、の所でウィッシュが右手を広げると
なんと彼の手の平から
アレラーモがイメージしていた
葡萄色の小さな木の実が半透明の像となって現れた

「あぁ、なるほど
 小さい木の実だね
 これは探すのも一苦労するね」


「え、何する…!?」

今度はウィッシュが現した木の実の像を
アレラーモの額へと押し込んだ

すると、中に入った"色のない光"によって
彼女の脳裏にここから近い所に
木の実が落ちている光景が浮かんだのだ



アレラーモは狐につつまれたような心地だったが
やがて頭の中のイメージは現実にあると確信した


さっと反転したアレラーモは
草むらの奥の方へ走り出す

屈み込んで草の陰に消えたアレラーモは
少しの間草むらを揺らしながら
木の実を探っていた



やがて彼女は草むらの中から飛び出して
涙を流さんばかりの表情でウィッシュに駆け寄る

「ありました!ありましたよ!」

ささくれだらけの手で包んでいるのは
小さな木の実が数個くらい


「ふふ、見つかって良かったね」

当然のことをしたまでと
相変わらずウィッシュはゆったりと微笑んでいる


「あなた、魔法使いさんですか?
 さっきから知らない言葉を使っているのに
 なぜだか話せちゃいますから、もしかしたら…」

高揚した気分でアレラーモが尋ねる

「まぁ、そんなところかな
 知らない言葉を使っているのは
 俺が他の世界から来ているせいだね」

随分と突拍子も無いことを言われたが
数々の奇跡を目の当たりにしたので
アレラーモは自然とウィッシュの言うことを信じた

「あぁ、それで!
 ほんとうにありがとうございました!
 でも、何にもお礼ができなくて…」

「いやいや、別にいいよ
 君が笑ってくれたらね」



アレラーモは両手で包んでいる
木の実をぼんやりと眺めている



「それ、パンか何かの材料にするの?
 違ってたら悪いけど、君パン屋さんだよね?」

エプロン、三角巾、ささくれだらけの指から
ウィッシュは彼女がこれを探している理由を推測した

「はい、これをパンと一緒に焼けば
 こんがりとして美味しいんですよ」

「へぇ~、美味しそうだね
 香りも良さそうだし
 …それだけで足りるの?」

「はい、これだけあれば十分です」


しかし、これだけの木の実からは
せいぜいパンが1個か2個くらいしか作れなさそうだ


「そう?あまり無い木の実なんでしょ?
 もっと採っておかなくて大丈夫?」

「…はい、もう必要ありませんから」

「…店を閉まっちゃうから?」

不審に思うウィッシュを前にして
アレラーモの表情は曇り始めた

「…そう、かあ
 違う世界から来ているから
 何も知らないんですよね…」

「何も…?」


ウィッシュは怪訝な顔をしてこう言い足した

「良かったら、詳しく聞かせてくれないかな?」















「…なるほど、それで木の実を探していたのか
 弟さんが食べたくても食べられなかった
 店に売り出していたそのパンを
 せめて最期に食べさせてあげるために」



アレラーモは、この摩訶不思議な訪問者を
天命の為すがままに自宅に招いた


二人はテーブルを挟んで向かい合って座り
この三日間で彼女が思ったこと、感じたことの全てを
薄暗く埃っぽい居間の中で話し続けた


アレラーモは膝の上でアンドレアを抱いている
幼気なアンドレアは、生まれて初めて食べる
この店で最も高いパンの味に夢中になっている

パンは二つ、アンドレアの為のパンと
元々ウィッシュにと出したパンを
遠慮してアンドレアに譲ったパンとで二つだ



「はい、あたしは意地悪でしたから…
 せめて死ぬ前に一度は
 アンドレアの為に何かをしてあげないと思って…」

「そう…他の村人たちは?
 いつもはアンドレアの子守りの為に
 順番になって来るんだよね?」

「みんな、死んだ魚のような目になって
 何もしたいとは思っていませんでした
 それにおばさんたちにも家族がいますから…」

「…生きる気力が無いんだね」


ウィッシュはため息をついた
自分の生きる気力まで
消えていくような感じさえした


「ご、ごめんなさい
 魔法使いさんを悲しませるつもりじゃ…
 お墓の前で両親には言ったんですが
 それだけじゃなんか寂しかったんです」

「いや、俺は大丈夫だよ
 それより…君は?
 もう12時間を切ったし…」



どうもウィッシュには納得がいかなかった

普通、異世界を自由に行き来するような
極めて優秀な力を持つほどの魔法使いと出会ったら
助けを求めて泣きついても
おかしくはないはずだと


だがアレラーモは妙に落ち着いている

全てを悟ったような穏やかな表情の裏で
もう自分は死んだと思っているのかもしれない



「あたしの方こそ大丈夫ですよ
 あたし一人だけ生き残っても
 絶対一生後悔して生きていくだろうし」

「まぁ、それはそうだけどさぁ…」



眉を下げながら笑うアレラーモは
アンドレアを強く抱きしめている

「いいんです、あたし
 死ぬ前に大切なことに気づけましたから
 これ以上ないってくらい、幸せです…」

そう言って、哀しく笑ってみせた
居眠りをしているアンドレアを抱きながら





「…それなら、君の人生はこれからだろう?
 大切なことに気づいたんだったら
 もっと幸せな人生を送れるじゃないか」

ウィッシュはやりきれない思いを
真剣で冷静な表情に封じ込めながら言った


「で、ですが、どっちみちあたしは…
 それに魔法使いさんに迷惑をかけたくないです
 関係ないのに巻き込んじゃったら…」

どことなく混乱するアレラーモ
やはり内心にわだかまりがあるようだ


「じゃあ、俺がその隕石を何とかするよ
 それなら全員が助かるし
 君もこれから愛する弟と暮らせるようになる
 それで、良いだろう?」

現実味の無いことを言うウィッシュ
しかしその眼は本気だ


不可能を可能にするほどの威厳が
彼には備わって見えたが…

「そ、そんなこと…!
 あたしたちはどうせ
 ここで死ぬ運命ですから
 命を張ってまでそんなことしなくても…!」

両手を振ってアレラーモが彼を止める
もしかしたら助かるかもしれないという
淡い希望を持ちたくないのだ

もし少しでも助かる可能性が生じれば
死を受け入れたくないと思ってしまうあまり
再び発狂するに違いないからだ

その上、彼の言うことを信じた結果
明日の朝まで自殺するのを待っていて
しかも裏切られたなら
死ぬ場所と時を自分で選べなくなる
それがとても恐ろしい




「俺のわがまま、じゃあダメかな?」

ウィッシュが静かにそう言った

「…わがまま、ですか?」

黙って頷くウィッシュ



「納得いかないんだよ
 最後の最後で大切な物に気づいた
 だから、たとえ死んでもバットエンドじゃない
 そんな悲劇の物語のような終わり方がね」

アレラーモはウィッシュの鋭い眼つきに
いつの間にか釘付けになっていた

「そして、その悲劇の物語を見た人は
 登場人物に同情して涙を流す
 愛って素晴らしい、切ないなぁ、とか言って
 『平和な日常こそが素晴らしい!』なんて思うのさ
 でもさ、そういうのって腹が立たない?
 実際に死んでしまった登場人物からしてみれば
 自分には関係が無いのをいいことにしちゃって
 他人の不幸を種に、優越感に浸っているように見えない?
 『自分じゃなくて良かった』って
 …俺はそういう人間になりたくないんだよ」



アレラーモは不安になった
もしかしたら自分がしていること
家族愛を高らかに謳っていることは
ただの現実逃避に過ぎないのかもしれないと

そうだ、母は一日も長く生きたいと願った
だが、自分はもう生きることを諦めてしまっている

たったそれだけの違いだというのに…



「俺は強力な魔法が使えるから
 傲慢になっているだけなのかもしれない
 両親も言ってた、世界を救うと考える時点で
 独りよがりになっている偽善者だと
 所詮人間はどこまで行っても一人の人間
 為すことやることには限界がある
 全ての人々を幸せにするなんて不可能だからね
 …でも、君を見捨てて、同情するふりをするのは
 それ以上に傲慢で、卑怯だと思うんだ」



それだけ言うと、ウィッシュは両肩から力を抜いた
こんなことを言っているのが
自分自身馬鹿らしくて仕方が無かった

アレラーモは、動揺した表情で
こちらを見続けている



「…だから、死ぬなんて言わないで
 生きていたらいいことがあるよ、絶対」

精一杯の微笑みで誤魔化しながら
ウィッシュは語りを締めくくった



―生きていたらいいことがある

アレラーモは、命の灯が消えるその瞬間まで
笑顔を絶やさなかった母の顔を思い出していた





「それじゃあ、俺は行くよ
 まずはその占い師さんに
 どこに隕石が落ちるのかを
 詳しく聞いてこないとね」

ウィッシュは立ち上がると
襟元を正しながら家の出口の方へ向かった



「…ごめんね、偉そうなことばっかり言って」

「いえ、いいんです…」

アレラーモは腕の中で眠り続ける
アンドレアを優しく揺らしている


「こんな時間までいてくれて…
 お腹減りましたよね、魔法使いさん
 こっちの方こそごめんなさい
 パンをあげたかったんですが
 もう全部ダメになって…」

別れを惜しむようにアンドレアは言う

名前も知らない魔法使いが与えてくれた優しさが
離れてしまうのが少し怖かった


「ふふ、それじゃあその分は
 明日の朝に作ってもらおうかな」

ウィッシュは、アレラーモの意志の強さに
ほっと胸を撫で下ろして笑ってみせた



「はい、必ず…!」





(To be continued...)




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はじめてコメントさせていただきます。
楽しく読ませていただきました、上手いですね。

ウィッシュの「俺のわがまま、じゃあダメかな?」からの会話が
かなりいいです、共感しました。



天邪鬼様へ

こちらでは初めまして、ですね(^^*

ウィッシュはかなり癖がある人物ですからね
彼が好きな人より、むしろ嫌いな人の方が
ずっと多いのではないでしょうか?

ですが、共感して頂いたことが
作者として非常に嬉しいです(・ω・*

こんにちは、sunさん

過去作以外は全部読ませていただきましたが、
やっぱり、ウィッシュはいいと思いますよ。

魔法使いは、「見えないものを見る」と言いながら、見えない
人の心に戸惑う所とか(わざと見ない様にしてる??)

「俺に為に」って言う、姿勢がいいです。
逆に言えば、全ての結果を人のせいにしないって事だと
思うんですよ。 僕も同じ考えなので余計にいいです。

長くなりましたが、楽しく読ませていただきました。

天邪鬼様へ

再びコメントありがとうございます(^^*

一応、最もウィザードの名に相応しいウィッシュですから
その実力、見えないものを見る力(=感受性)は
紛れもなくトップクラスの能力を誇ります
逆にそれが仇になってしまうこともあるんでしょうね(-ω-;

しかし、そうして不幸自慢を重ねていては
"能力に頼っているだけの人"になってしまいます
更に、彼がその神にも等しい力に物を言わせて
偉そうなことを語るのは、傲慢で独りよがりなことです

故に、彼は一人の人間として精一杯に生き
その結果「俺の為に」生きているのです
それに彼の幸せを望む人を彼自身が知っています
ウィッシュはある意味、自分と関わる人の為にも
自身の幸せを願っているとも言えますね

非常に長ったらしいコメントでしたが
ウィッシュを好きになっていただいたことが
この上ない喜びとなっています(`・ω・´

これからも、For the wishの新作は創り続けるので
是非とも新作を楽しみになってくださいねm(__)m

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