愛の姿が見えぬ者 Part2

2012 - 01/09 [Mon] - 20:20

女が男の友達になる順序は決まっている。
まずはじめが親友、それから恋人、
そして最後にやっとただの友だちになる。




【ウィッシュ=フローラ】

無邪気さとニヒルさの間で気ままに生きる世捨て人
催眠療法のために両性から好感を持たれる中性的な容姿をする

極限まで研ぎ澄ました色のない光<魔力>を自由自在に操り
魔力そのものを崇拝する変わり者だが、天然ボケでとても繊細


【コーネ=フローラ】

芯が強く、聡明で笑顔が似合う金髪の女性
人助けに喜びを感じる純粋さの一方、我儘な一面も

事実上の奴隷だった彼女は、死の直前ウィッシュと出会った
幽霊となって今は彼に寄り添うように暮らしている


【レイティア=ノーノ】

人魚の少女、金髪、清楚な感じが漂い慎み深い
何時までも子どものままでいられるように、長年眠り続けていた

目が覚め、ようやく大人になることを受け入れた彼女は
ウィッシュたちと暮らす中で、心身共に成長してゆく






~あらすじ~

夕方にも関わらず「仕事だ」と出掛けるウィッシュを見て
彼は浮気しているのではないのかとレイティアは疑うが
コーネは「そんな心配はない」と笑顔で言う

その後、ウィッシュが薄暗い書斎を訪れると
妖しい雰囲気を漂わせる女性が彼を迎える

彼女の名はアリーナ=ナスターセ
男を堕落させ、精気を貪るサキュバスだ















電球の僅かな光を頼りにした机の上に
様々な小道具と書物とが乱雑に置かれている


その机の中央で黒いノートパソコンが開かれ
すぐそばには電子辞書と走り書きのメモがある



椅子に座り、パソコンの液晶画面を
凝視しているウィッシュは
一旦キーボードを打つ手を止めた

彼は机の上に転がっていた赤い針を手に取ると
彼が座る椅子の背もたれに
両腕を乗せ、パソコンの画面を眺めていたアリーナに見せる


「これは何に使う道具?」

ウィッシュがパソコンの画面から目を離さずに言う

「それぇ?女の子にプツリと刺すと、
 どんな不細工でもメロメロになってしまうのよ。
 インキュバスの間では、『負け犬の証』と呼ぶけれど」

ウィッシュが振り向いてくれないので
アリーナもまた、液晶画面を眺めたまま言った

「なるほどね。…針は男性器の象徴、か。
 ふふ、夢魔も人間も変わらないのかもね…」

「人間にもこういう道具があるのぉ?
 注射器で媚薬を打つとか?」

「いやね、『眠れる森の美女』は知ってる?
 紡錘(つむ)竿で手が傷つけられたお姫様が、
 100年間眠ってから目を覚ますって童話。
 あるフランスの精神分析学者によれば…、
 もう率直に言うけど、これは自慰行為と
 それに伴う罰の象徴なんだって」

ウィッシュはアリーナに物語りつつ
ジャケットのポケットからデジタルカメラを取り出し
赤い針を資料として写真に収めた

淡々と作業をこなすウィッシュのすぐ傍で
アリーナが興味津々に彼の話を聞いている


「強引ねェ…。『溜まっている』のかしら?くすくす…」

「さあ?この説を提唱したのは女の人だけどね。
 文化背景を見ると、キリスト教圏においては、
 自慰行為では罪深い行為だと
 聖書から『解釈されていた』んだ。
 別にはっきりと記述されていたわけじゃないんだけど。
 それに、この童話を元にしたグリム童話の『茨姫』では、
 茨の城で100年前から眠り続けていたお姫様が
 『王子のキスで目覚めて』結婚する、となっている。
 ただこれは、偶然の一致と言えるかも」

「あらあら…」

ウィッシュは写真を獲り終えると
今度はケーブルでカメラとパソコンを繋ぎ
データを取り込む作業を始める

両者とも目を合わせないものの
微笑みを作って会話を愉しんでいる


「そうそう、日本の『古事記』にこんな描写があるんだ。
 太陽神アマテラスとその侍女が機織りをしていると、
 スサノオが屋根の上から死んだ『馬の皮』を投げ入れた。
 驚きのあまり侍女の一人が機織りの道具、『ヒ』で、
 彼女自身の陰部を衝いて死んでしまったそうだ。
 東北地方に伝わる『オシラサマ』の馬娘婚姻譚とか、
 またギリシャ神話の『ポセイドンとデーメテール』など、
 多く『馬は女と交わる』ことを考慮すると…ね。
 これは、俺の憶測だから真に受けて欲しくないけど、
 衣服など、『大切な物を創る』という針の機能と、
 『刺さると痛い』という針のイメージから連想して、
 針は男性器の象徴として描かれたんじゃないのかな?
 …もっと聞きたい?」

あまり役に立たない知識を披露して
ウィッシュは満足そうに目を輝かせているが
アリーナは半ば呆れたようにため息をついた


「…どうしてそんな下品なことに詳しいのよ?」

「魔法研究の一環だよ。魔法は『イメージの力』だから
 文学や風俗は魔法の形態に大きな影響を与える。
 そして、それらの学問で『性風俗』は
 結構密接に関わることが多いからね。ふふ…」

「つまり私には誘惑されないと言いたいのね?
 あくまで研究対象なのだから。
 あはっ、面白いじゃない…」

顎をアリーナに撫でられて
一瞬ウィッシュは目を丸くする

が、ウィッシュはそのまま
再びキーを打ち始めたのであった















同じ時間、コーネとレイティアは
イタリアンレストランのテーブルに
向かい合って料理を食べていた



「ふぅん…。サキュバスかぁ…。
 そういえば、人魚の声を研究したいと言われて、
 ウィッシュに付き合ったことがあるわ」

レイティアは、フォークでクリームパスタと
スモークサーモンを絡めながら
魚介類をふんだんに使ったサラダを食すコーネに
安心したような声で話した

「そういうこと。浮気なんてしたら、
 ウィッシュが持つ強すぎる魔力が
 私に『ウソです』って教えてくれるよ。
 それなりに魔法を使える私だから、
 いつも一緒にいるとなんとなく分かるようになるの」

コーネは得意そうな顔で受け答えする


「でもサキュバスの魔法を
 研究するのはなぜかしら?
 コーネと仲良いのに、変だわ」

「ウィッシュは、催眠術を使うでしょ?
 催眠術のやり方の一つに、
 気持ちのいいイメージを
 想像させる方法があるの。
 『あなたは空から落ちている~。
  空から落ちれば落ちるほど、
  気持ちのいい世界に入っていく~』、なんて。
 サキュバスのような『夢魔』は、
 夢の中に現れて『気持ちのいい』誘惑をするから、
 ウィッシュがそこに目を付けたのよ」

コーネは長い説明を終えると
ほろ苦い赤ワインを一口含んだ


「…ふぅん。
 どうしてそんなヘンテコなこと
 思いつくのかしら?」

「魔法と催眠術、どっちも使えるウィッシュだから
 こういう発想が生まれちゃうのかも。
 魔法で夢の中に入ることができれば、
 よりダイレクトにイメージを操作できるのよ。
 それに、ウィッシュは暴力を嫌うから
 戦うときも催眠術を使う、それも理由の一つ。
 『インキュバス』なんてニックネームも
 つけられているんだよ」

「うぅん…。
 催眠術のことなんて
 よく分からないけど、
 とりあえず役に立つのね。
 …でも、一体どんなプレゼントをあげたら
 サキュバスと仲良くなれるのかしら?」

「それは―」


好奇心旺盛なレイティアに付き合うために
コーネは渇いた喉をワインで潤してから
引き続き長い話を彼女に言って聞かせた















「ね!かちんと来るでしょ!
 お裁縫、お料理、お茶会、
 女の子っぽいことばかりしたって
 全然関係ないの!」


アリーナは腕を組み
仕事に集中するウィッシュの背後を
足音をたてながらうろうろしている


「顔が良ければ偉くなれるし、
 お友達もたくさん増えるなんて!
 もちろんそのお友達は
 リーダーの『おこぼれ』を
 狙っているだけよ!」



先ほどからアリーナは
自分の境遇と過去について
延々と愚痴を垂れ流しているのだ

ウィッシュは液晶画面に釘付けになりながらも
彼女の述べたことについて
相槌と彼自身の感想を忘れない

「『おこぼれ』ねぇ…。
 その『おこぼれ』にあずかった奴もまた、
 下の奴に『おこぼれ』を狙われるんだろうな。
 しかもよりによってそのお相手は、
 同じようなことを考えているインキュバスか。
 …あぁ、なんとも馬鹿らしい」

「でしょう!どうせすぐ別れるのに!
 私だって分かっていたけど、
 彼氏がいないサキュバスなんて
 見下されて仲間外れにされるから、
 好きでもないお相手と付き合ってやったわ!
 魔法や化学が発達した今のご時世、
 わざわざ男を襲わなくても
 食事もできるし、子どもも産めるのに、
 『ダイエットに最適』みたいな
 嘘がバレバレの売り文句信じるなんて!」

「流行だろう、ただの。
 金魚の糞みたいに付きまとうしか能のない奴は、
 自分で物を考えることができないのさ。
 人間…いや、どの世界にもそういう連中はいるよ。
 そいつらのおかげで金の流通は活発になるんだから
 むしろ感謝するべきだと思うけどね。フフフ」

嫌味な笑い声を発するウィッシュ

「あははっ!面白いこと言うわねェ!」

アリーナも、とても爽やかな表情で笑った



「それに比べて…いいわねェ。人間は。
 身体以外の素敵なところを見て
 見返りを求めない愛を捧げるのよねェ?」

アリーナは、ウィッシュの座る椅子の背もたれに
その両腕をのせ、彼の耳元で囁いた

「好きな人の幸せを願うから、
 お相手も幸せを願ってくれる。
 好きな人の為に強くなるから、
 その成長はプラスで、自己満足がない。
 何よりも、お互いに永遠を誓っているから
 別れた後の虚無感に襲われることもない。
 寂しさを紛らわすためだけに、
 新しい出会いを求め続ける私なんて
 どこにも見るカケラもなくて…。
 なんだかヤキモチ焼けちゃう」


ウィッシュは手を止め
吐く息が触れるほど近くにいる
アリーナに微笑みかける

「…でもアリーナは、
 こうして俺に協力してくれている。
 ここにある夢魔の魔法や道具、
 そしてアリーナが話をしてくれるおかげで
 とても仕事が捗っている。
 それこそ、俺自身だけの幸せなのに
 アリーナは見返りを求めずに手を貸してくれる。
 慰めなんかじゃなくて、本当に感謝しているよ、俺は」

「くすっ。そのような言葉が言えるから、
 あなた達に憧れているのよ。
 私は、あいつらと生きていけないから
 こうしてぶらぶらしていただけ。
 暇潰しにあなたと付き合っていたら
 まさか感謝されるなんて、
 私が生きていた世界ではあり得なかった。
 ウソをついていない、まっすぐな目で…」


アリーナは、ウィッシュの左手を取り寄せると
薬指に嵌めているダイアモンドの指輪を見つめた


「あなたのお嫁さん…。
 あなたに相応しいくらい、
 良い人なのでしょうね…」

「まあね」


僅かな光に照らされたアリーナの瞳は
どこか寂しげに潤っていた





(To be continued...)




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