憂鬱な吸血鬼 Part2

2012 - 05/27 [Sun] - 16:11

自分自身を幸福だと思わない人は、決して幸福になれない。
                            ―サイラス




【ウィッシュ=フローラ】
 無邪気さとニヒルさの間で気ままに生きる世捨て人。催眠療法のために両性から好感を持たれる中性的な容姿をする。極限まで研ぎ澄ました色のない光(魔力)を自由自在に操り、文字通り神をも超える力を持つが、仄かな哀愁を漂わせている。



~あらすじ~
 ある夜、仕事の疲れを癒す為ウィッシュはとある歓楽街を訪れる。そこでは人間社会に溶け込んだ吸血鬼たちが、生活手段として”刺激的な水商売”を展開しており、偶々出逢った客寄せの吸血鬼によりウィッシュはバー(酒場)に案内される。店内で彼は、憂鬱な、そして掴み所のない吸血鬼の青年、デイヴィッドと顔見知りになる。
 ぎこちないやり取りや、バーに乱入した父親との騒ぎ、バーの従業員の話から聞きかじった限りでは、彼はかつてこの地一帯を支配していた血族の末裔であり、夜になると行く宛てもなく歓楽街を彷徨っているそうだ。デイヴィッドは初対面の相手に「明日も来て欲しい」と言い残し、訳ありだと感じたウィッシュとしては彼の我が儘に付き合ってやるつもりでいた。





 次の日、ちょうど例のバーが開店した直後から、ウィッシュはカウンターでワインを味わっていた。デイヴィッドはまだこの店に来ていないようなので、ウィッシュは呆れつつも気長に待っているのだ

 ちょうど昨日の赤毛の吸血鬼が暇していたので、少しの間彼女が楽しい話し相手になってくれた。
「ほら、銀色の髪飾り。ハート型のパールをあしらったんだ。赤い髪には映えると思うんだけど…どうかな?」
 ウィッシュが片手で差し出した銀細工の髪飾りは、周囲に満ちる魔力を素材にして創ったもの。色のない光を放つ数々の珠に、赤毛の吸血鬼は心奪われる。
「キレイ…。なんだか、心が安らぐようね。」
「ただのアクセサリーじゃないからね。魔力そのものから生み出された物なんだ。魔力とは不可能を可能にする願いや祈りのこと。このアクセサリーには、君の疲れが癒えるようにと願いが籠められているんだ。」
「ということは私の?ありがと!持ってみてもいい?…はぁ、とても落ち着く。好きな人に頭を撫でられているみたいね。どうしようもないくらい、優しい気分になれるわ…。」
「気に入ってくれたなら嬉しいよ。その為に創ったんだからね。ふふ…。」
人肌にも似た温かみを帯びた髪飾りに、赤毛の吸血鬼は何度も頬擦りしていた。
「お、来た来た。」
 デイヴィッドは二人からそう遠くはない距離で気配を殺して立っている。
「あぁ…。すまない、もっと話したかったか?なら俺は姿を消そう。ゆっくりと話しているといい。」
「いや、君を待っていただけだよ。」
「そ、そうか…。遅れてすまない…。どうも動く気になれなくてな…。」
彼はウィッシュの隣の椅子に座ると、項垂れたまま何度もため息をついた。赤毛の吸血鬼がウィッシュにウインクすると去ってくれたので、すぐに二人が腹を割って話せる雰囲気になった。
「昨日は悪かった。結局前置きだけで長い時間を無駄にしてしまったからな…。すぐに本題に入らせてもらう。」
「オーケー…っと、その前に。お酒頼む?一杯くらいなら奢ってあげるけど。」
「あぁ、酒は要らん。苦手だ。」
「あら、そう?せっかくここに来たんだから、カクテルくらいは呑んだっていいのに。」
「酒が目当てではない。他に違う目的があってここに来るのだ。それは…」

 この後、非常に長ったらしいデイヴィッドの告白が続いた。まず彼は、酒も呑まずに夜な夜な酒場を訪れる理由を話してくれた。彼曰く、寂しさを紛らわす為に”出逢い”を求めているそうだ。酒場は実に多様な人々で賑わっている。昨日のウィッシュのように、デイヴィッドに興味を持ってくれる物好きが一人くらいはいるだろうと期待して、彼は酒場に通っていたというわけだ。
 だが彼にとって、自分から人に話しかける行為は苦痛でしかない。だから酒場の片隅でうつけ者を演じながら、誰かから話しかけられるのを待つしかないのだ。当然の如く、生気のない表情を浮かべる彼に話しかけようとする物好きは滅多にいない。稀に娼婦が彼を誘惑することがあるが、妙な所で潔白な彼は彼女たちを抱く勇気を持ち合わせていない。
 こんな消極的な彼にとって、唯一心の底から楽しいと思えることは、錬金術の研究である。吸血鬼は日光を浴びるとすぐに体調を崩す為(即死ではない)、人間から観て昼夜逆転の生活を送らざるを得ない。昼間、仕方なく城に閉じこもらなければならない間は、ひたすら研究に没頭している。
 一度錬金術が話題に上がると、デイヴィッドは早口で長々と自分の趣味について語り始めた。錬金術は、魔法の中でも異端の分野で、魔法でありながら特に化学的素養が求められる。化学の知識に乏しいウィッシュが、素直にデイヴィッドの努力や才能を称えると、彼は一瞬だけ青年らしい朗らかさが顔に宿った。
 はっとして彼が我に返ると、今度は家族のことについて話し始めた。百年以上も昔のことだが、彼の父親はこの地域を支配した吸血鬼の王で、近隣の人間達から恐れられていた。が、時代が下ると、次第に吸血鬼も純粋な恐怖の存在としてではなく、むしろ変わったことを好む人間達の憧れの的と変貌した。若い吸血鬼たちはその風潮を好ましく考え、人間社会に溶け込む道を選び、彼の父親のような古い存在は取り残されていった。それが強いコンプレックスとなり、彼の父親はこの歓楽街や若い吸血鬼を許せず、デイヴィッドを伝統に従って教育している。当のデイヴィッドはそれを不満に思っているのだが、何分幼少の頃から若者の馴染めなかった為、人間関係も希薄で不器用な人間となってしまったのだ。

「―だから俺は、運命に導かれた救世主が現れるのを待ち望んでいた。できれば異性の方が良かったがな。だが運命はあんたを選んだのだろう。俺はそれに従う。」
 およそ二時間後、ようやくデイヴィッドの話は止まり、彼は疲労と安心感が入り交じった深いため息をつく。ウィッシュが周囲を見渡し、耳を澄ませると、開店直後よりバーが賑わっているのがはっきりと分かった。
「俺の父親ほど理不尽な男は、世界中を隈なく探してもそうそう見つかるまい。奴は在りもしない青い鳥を追い求める愚か者としか思えん。老人はもう少し賢明で、悟った存在だと思っていたが…。」
「…なんとなく分かる気がする。君のお父さんは見たことがないけど、似たようなのを見たことがあるよ。極東の地(日本)では、人間に忘れられた神や妖怪たちが暮らす風光明媚な楽園があるんだ。と言っても、彼女たちの大半は、いい歳して互いに争っているのが現状なんだけど。信仰を…人間たちに崇められていた過去を取り戻したいんだってさ。ふふ、君のお父さんも彼女たちと同類だろうね。」
ウィッシュが冷ややかに笑ってみせると、デイビッドも口を吊り上げた。
「ふっ。分かってくれると思ってた…。」
 デイヴィッドは達観したように天井を見上げ、物悲しそうに目を細める。

「…頼みがあるんだ。俺をあんたの住む楽園に連れて行ってくれないか?」
「えっと、それは俺たちと一緒に暮らしたいってこと?」
ウィッシュが困惑してデイビッドの方を見ると、相変わらずデイビッドは上を見たまま「あぁ…。」とだけ言った。
「う~ん…。どうしよう?実を言うと、俺の家にはお嫁さんの他にも何人か居候がいるんだ。それも、天涯孤独な人魚と、唯我独尊なエルフと、自由奔放なサキュバス。例えると、小さな湖に小さな島が浮いているような狭い世界だから不自由だし、負担も…なぁ…。」
「…ならば俺も非力ながらあんたたちを手助けさせてもらおう。あんたは錬金術が苦手だと言ったな?数ある魔法の一分野に秀でた程度では、あらゆる魔法を極めたあんたにとって卑小な存在だろうが、それでも命を削ってあんたたちに貢献しよう。」
「いや、別にそこまでしなくてもいいんだけど…。うぅ、話してみた感じ、確かに君の錬金術に関して明晰であるどころか、魔法一般に関する知識も結構あるみたいだ。絶対に役に立つだろうし、俺も君ともっと話してみたいと思う。」
デイヴィッドは目を閉じて、ウィッシュのはっきりとした返答を暗に求めた。
「ただ、俺個人で決定できることじゃないからなぁ。シャミッソーの時は成り行きでああなっちゃったけど…。」
 ウィッシュはズボンのポケットから特殊な携帯電話を取り出すと、席を立ってウォッシュルームの中に入り、異世界にいるコーネに電話をかけた。その間デイヴィッドは思索に耽り、いよいよ訪れる幸福を目の前にしての緊張を紛らわそうとしていた。

 暫くしてウィッシュが席に戻ると、デイヴィッドは答えが分かりきっているかのように期待してウィッシュを直視した。
「コーネに連絡して来た。今からでも連れて来ていいんだってさ。」
「…ありがたい。」
虚ろな目に灯が宿ったデイヴィッド。ウィッシュは頭を掻いて彼に問いかける。
「家族には言わなくていいの?」
「ふん、あのような場所、二度と戻るまい。俺はあんたの住む楽園で生まれ変わるのだ。」
「そう?デイヴィッドがそれでいいなら俺は何も言わないけど。」
「あぁ…。今すぐにでも、ここから去りたいものだ。」
 ウィッシュはグラスに残ったワインを一気に飲み干すと、今度はポケットから財布を取り出しながら言う。
「じゃあ、すぐにでも帰らないとね。とりあえず君の寝る場所を創らないと。一応俺の世界にも太陽があるから、日の光が届かない地下室に創って方がいいかな?昔、地下に根城を構える吸血鬼が出てくる本を読んだ記憶があってさ。デイヴィッドにも協力してもらうよ。俺の魔力をデイヴィッドに分け与えるから、それを使ってデイヴィッドが自分の思うように部屋を創るんだ。どうも俺は、物理学とか建築学とかにはからっきしで…。レイティアとアリーナの時は専門家に来てもらったけど、何日もかかったからなぁ。」
「気にするな。それくらいならすぐにできる。あんたの持つ、無限の魔力とやらに後押しされれば、尚更のこと。」
「それはよかった!よし、行こうか。」

 ウィッシュは支払いを済ませると、やや急ぎ足で家から出た。デイビッドも彼に従い、ちょっとの間二人は歓楽街の大通りを歩いた。
「俺が”今すぐにでも”と言ったから急いでいるのか?すまない…。もう少し、ゆっくりしていても良かったものを。」
「うん、俺はいいんだよ。それよりも、ちゃんと家事とか手伝って、コーネの負担を和らげてくれよ。一番苦労するのはコーネなんだから。」
「家事か…。すまん、全然だ…。使用人が何でもやってくれたからな…。」
(あぁ、もう本当にこれで最後にしよう…。)




(To be continued…)



こんにちは

錬金術と魔法、面白い取り合わせですね。
どうなるか…興味津津です。

現代のアルミニウムに代表される様な、錬金(合金かな?)と魔法が合わさったら、どんなスゴイ物が…
なんて、思ってしまいます。

天邪鬼様へ

ちょっと長ったらしくなりますが解説させていただきますね(・ω・

まず重要なのは魔法とはイメージの力であるということです。故に的確で鮮烈なイメージが出来なければ、いくら魔法の技量に優れても、それを実現することは難しいと言うことです。
例えば、未知の奇病を治療するためにはその原因を解析して(治療という行為が向かう最終段階をイメージする)、的確な治療を施さなければなりません。解析が出来なければ、いくら優秀な薬を投与しても(ウィッシュが魔法を使ったとしても)その病気は治りません。(その解析に必要なものとは、この場合医療知識となります。)


そして、錬金術とは魔法と言うカテゴリ内における一分野です。魔法と言うカテゴリ内には、メジャーな所で呪文を唱える唱術やら、歌を歌うことで魔法を使う歌術など。戦闘用に使われる武術やら、医療用に使われる医術など。本文である通り、錬金術は科学的知識が要されます。ウィッシュにはそれに関する知識が殆どないために、錬金術によって生み出される物のイメージができず、結果錬金術が使えないということになるのです。

ですが、純粋な魔法の技量ならばウィッシュの右に並ぶ物は存在しません。もし彼の持つ魔力を貰った上で、ウィッシュが持ちえない知識を持ってイメージすれば…。見たこともないスゴイ物ができるでしょうね(・∀・*

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まとめtyaiました【憂鬱な吸血鬼 Part2】

自分自身を幸福だと思わない人は、決して幸福になれない。                            ―サイラス

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